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「ごめんね、待たせちゃった?」
ぱたぱたとリビングまで駆けてきた柚陽 は、いつもと変わらないように見える。柚陽のことは信じてるし、海里 の時みたく目に見えて何か変わったワケじゃない。
柚陽は裏表もないし、言葉を言葉のまま素直に受け取る子だ。こーいう隠し事は苦手だって思うんすよね。だからもし、なにかを隠していたなら、どこかしら綻びがでるはず。そうは言っても、折角の幸せを疑心暗鬼で台無しにしたくないから、「浮気してるかも」なんて前提でいちいち監視したりはしないけど。
しない、けど。
やっぱ気になっちゃうのは、イヤなヤツっすかねぇ。半ば自己嫌悪を抱きながら、陸斗 は頬を掻く。
「大丈夫っすよ。でも、最近忙しいんすか? 課題に追われてる、とか」
「課題は大丈夫だよー。こう見えてオレだって、それなりにちゃんとやってるんだからね」
うん、それは分かってた。分かってたけど、無難なトコを聞いたのだ。ここで「そうなの! あの教授にたっくさん課題を出されちゃって」なんてボヤいてくれれば、そっちの方が陸斗の精神衛生上は楽だったんだけど。
こてん。柚陽の首が、いつもの角度になる。やっぱさすがに白々しかったかな。
最近は人と交流を持つようになったといっても、まだまだだ。ごく限られた中でしか人間関係を築いてこなかった陸斗が、上手く探りを入れるなんて器用な真似、出来るワケがない。ましてや陸斗の方で「柚陽を信じてる」「疑心暗鬼で今の生活を壊したくない」「何をしてるのか気になる」なんて、自分の感情さえまとまっていない状態じゃ、なおさら。
いくらド天然で、“言葉の裏”なんて考えない柚陽相手でも、「あれ?」って思わせるには十分だ。
「でも、急にどうしたの?」
ほら、やっぱり聞かれた。
下手に言葉を探すのは、かえって変に思われてしまうかもしれない。陸斗は覚悟を決めると小さく息をついて、はてなマークを浮かべながら首を傾げてる柚陽に向き直った。
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