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結局この日は柚陽 と一緒に夕食を摂って、それだけで終わった。最近ご無沙汰だし、一緒にいるんだからシたいっていう気持ちはあるはずだ。だけど、どうにもモヤの方が気になってしまって、そんな気持ちになれなかったのだ。
幸いというかなんというか、柚陽も疲れているみたいで、隣ですやすやと心地良さそうに眠っている。柚陽の小さな体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。起きなかったけれど、陸斗 の胸元に擦り寄ってくる。その動作は可愛くて、つい、くすっと微笑みが漏れてしまうんだけど。
「……なんで、っすかねぇ」
モヤモヤする。柚陽を信じていないワケじゃないんだけど。
空斗 が言った事は、柚陽が言った事とほとんど変わらない。「空斗は柚陽が陸斗と海里が別れるためにけしかけた」っていうのは、柚陽も明かしたし、空斗もそんな認識をしてた。
でも、なんか2人の言い方って違ってる気がするんすけど、ねぇ。
柚陽のふわふわの頭を撫でたり、背中をやさしく擦ったりといった、小さな子供の様な戯れを続ける。目は覚まさないけど、ふわっと微笑みが浮かんでる。可愛い。幸せで、守りたいって思ったはずで。
恋人を抱きしめて眠る、間違いなく幸せな時間。
それにも拘わらず陸斗は、あの時、海里 に問われた言葉を思い出していた。無視しようとしてもしきれない、モヤモヤを抱えたまま。
───今、幸せか?
「分からない、って言ったら、アンタはどうするんすか?」
ぽつりと漏らした声に、もちろん、答えなんてなくて。薄闇が広がる部屋の中、虚しく、静かに消えていった。
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