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波乱はそして、形を作る
「お前さ、柚陽 と付き合ってるんだよな?」
この手の面倒くさいのは減ってきたと思った。そんな矢先に聞かれて、イライラと、驚きと。それから心に居座っているモヤのせいで「そうっすよ」と即答するのに躊躇いを感じながらも、結局「そうっすよ」と肯定を返した。
友人の1人は責めたそうではないけれど、どこか不満そうにも見える。時々いた、「海里 の事はどうするんだ」っていう、海里だけを考えたお節介ヤローとは違う雰囲気ではあるけれど、果たして陸斗にとって都合良い話かと聞かれれば、間違いなく否だろう。悲しいけど、こっちは即答できる。
だから「悪いっすか?」と聞いたのは、嫌味を目的にしてじゃない。純粋な疑問であったし、どこか言いにくそうにしている友人に、話し出すとっかかりを作る目的もあった。首を突っ込まれるのは好きじゃないけど、言おうか言うまいかっていう煮え切らない態度の方がイライラするし、今、陸斗は自分の中のモヤを晴らすための手がかりが、なんとしても欲しかったから。
果たして、その効果はあったらしい。完全に吹っ切れたワケではなさそうだけど、「悪くはねーけどさぁ」なんて頬を掻きながら、友人は溜息1つ。
目線は泳ぎまくっていたけど、「オレは言ってやるんだ」みたいな決意が、ありありと目に浮かんでる。
「別にお前等がいつか別れる、って意味で言ってるんじゃねーぞ? 誤解すんなよ!? ベタベタイチャイチャするのは、まあ、良いと思うけど、柚陽を授業に出さないくらい疲れさせたり、2人の世界! って感じになんのは、良くないぞ? 万一の事があったら、余計なトラブルにもなりかねないし」
「は……?」
「いや、お前怖いって」
「……いや、アンタなに言ってんの、余計なお節介っすよ、みたいな、“は?”じゃなくて。いや、まあ、何言ってんの、とは思うっすけど」
だって、この友人はさも、柚陽が大学に来ていないかのような口ぶりで話すのだ。今日も昨日も一緒に大学へ向かったし、なんなら2限前の授業は一緒に受けた。確かにこの友人は2限前の授業は取ってなかったから、知らなくても仕方ないけど。
「柚陽、大学に来てるし、授業だって受けてるっすよ? さっきだって一緒に受けたっす」
「お前と被ってる授業はな!? 他の授業はすっぽかしてるし、お前が居ない日は大学にさえ来てないぜ? バカップルなのは良い事だけど、後々を考えると……」
目線を泳がせつつ、それでも呆れて言っていた友人の声が、徐々に小さくなっていく。逆に目線は定まった。まっすぐに陸斗を見つめて。そいつの目に映る、陸斗の顔も、物語っていた。
「お前、マジで知らなかったみたいだな……」
「そんな話、知らない」と。
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