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「うるさいっす」とも「余計なお世話っす」とも言えなかった。友人からの言葉に思わず浮かんでしまったのは、海里 の事。あれは海里に騙されただけだと、海里が悪いのだとそう思っていたし、した事に後悔など、なかった筈だけれど。
あれは、オレが勝手に思い込んで、海里を追い詰めた結果だったんだろうか。今更のようにそう思った。
典型的過ぎるな。もしそうだとしたら、あまりに愚かで、陸斗 は小さく苦笑した。
自分で思いつめて。海里の事を見失って。港 や波流希 の言葉も聞かなかった。それなのに、友人の中で極端に近いワケじゃない人間の言葉だからこそ分かる、なんて。
自分があまりに情けなくなってくる。これじゃ「余計なお世話っす」とは言えない。
と言うか、陸斗が海里にした復讐こそしらないにしても、関係がぎこちなくなったのを知っているだろう友人としては、当然の心配か。
心配してるのは柚陽の事かもしれないし、自分が通う大学が事件の舞台になる事かもしれないし。そういう細かいトコは分からないけど、一応感謝くらいはしておいた方が良いかもしれない。
「……ありがと」
ぼそっと呟いた陸斗の言葉に、友人はさっきまで感じていたはずの気まずさみたいなものは忘れたのか、目を丸くして、まじまじと陸斗を見つめる。
さすがに気まずさがまだ若干残ってるのか、頬を抓ったりはしないけど、状況が状況だったら頬さえ捻っていたかもしれない。さすがに失礼じゃないっすか?オレだって礼くらいは言うっすよ。
「言いにくいけどさ、お前、変わったな」
「そうっすか?」
「正直、余計な事言っちまったのは本当だし。文句の2つ3つは覚悟してた」
「確かに言ったかもしんないっすねぇ。ただ、アンタからの指摘には、ちょーっとズキっとくるモンがあったんすわ」
脳裏で鮮やかに映し出されたのは、以前会った海里の姿。記憶の海里よりも疲れていて、肌も青白くて,何より足に巻かれた包帯。
後悔なんてしてないけど、それでも、今の幸せを取り返しがつかないくらい壊してしまいたくない。大好きな柚陽に、あんな事をしちゃいけないから、きちんと冷静でいないと。
この友人が海里との事をどこまで分かっているか、陸斗には分からない。それでも陸斗と海里の関係が崩れている事は、友人間では特に有名だ。「そっか」呟いた友人の声や顔は、さっきまでの慌てた感じとも違って、どこか切なそうにも見えた。
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