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大学に行くと言った柚陽 を見送る。一瞬後をつける事も考えたけれど、それは取り返しがつかない事になってしまうかもしれない。やはり陸斗 としては柚陽を信じたいし、柚陽との幸せを守りたいのだ。
でも、気になるものは気になってしまう。友人の話もそうだけれど、柚陽がそれより前から何も言わずに出かけていたのは知ってる。そこについては「空斗 の事で海里 と話していた」と本人から聞かされたけれど、隠す事でもないのに最初隠していたのも事実だ。そうなると、「海里と話してた」っていうのも怪しく感じられ……ああ、違う。自分の胸の中に生まれてしまいかけた疑心を振り払う。「同じ事はしないって決めたじゃないっすか」言い聞かせながら。
後悔なんてないけれど、それでも柚陽相手にソレをする事になる様な事態にはなりたくない。もし疑心暗鬼のままに動いてしまって、結果、なんともなかった、なんていうオチがあったら、文字通り「目も当てられない」。
本当は本人が話してくれるのを待つか、信じて知らぬ振りをするのが1番かもしれない。それでも。
一応は陸斗達の事を心配してくれたのだろう友人の顔を思い浮かべる。柚陽の不在に気が付くくらいには、柚陽と同じ授業を受けている。多分今日も1枠くらいは被るはずだろう。そう踏んで、ケータイをタップ。滅多に使わない友人たちの連絡先から、その友人の番号を選ぶ。
細かい時間割までは覚えてないけど、今は休み時間であるし出てくれる可能性は高そうだ。
「……今日、柚陽の姿、学校で見たっすか?」
果たして、数回のコール音のあと、「もしもし?」友人の声が聞こえてきた。休み時間特有の雑踏も、僅かに聞こえてくる。
どうか「ああ、いたぞ」なんて答えを、「つーか今、隣にいるって。やっぱ勘違いだったわ、悪い」みたいな返事を。そんな期待は、簡単に打ち砕かれる。
「……いや、来てないし、1限は一緒の授業だけど教室にも来なかった。教授もさすがに、気にしだしてたから、やっぱ柚陽、ここ最近、お前と被らない授業は出てないよ」
ああ、そもそも、さっきの「もしもし?」は、そんな風に期待できる声じゃなかった。
陸斗は思わずその場に、崩れるように座り込んで、「参考までに柚陽は時間通り、出て行ったっすよ」半ば独り言のように、力なく呟いた。
2、3言葉をかわして、それから最後に「くれぐれも思いつめないように」って念押しされて、電話は切れた。ロック画面をぼんやり見つめる。
「どこ行っちゃったんすか? 柚陽……」
その言葉に、答えはない。柚陽が何を考えているのか、分からなくなりそうだった。
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