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そこで見た、幸せのなきがら
「柚陽 、やっぱ授業出てないっすか?」
「ん、さっきの授業はお前が取ってなくて、柚陽が取ってる授業だろ? 一応1番後ろの席を選んで周りを見たんだけど、いなかった」
授業をサボらせてしまうのは忍びなかったけど、さっきの授業は柚陽と友人が選んでいて、陸斗 が取っていない授業だ。今の授業は陸斗が取っていて、柚陽が取っていない授業になる。
だけど昨日見た光景もあって陸斗は授業を自主休講に決めて、話を聞かせてくれた友人に「ちょっと時間作ってもらえないっすか?」って声を掛けた。
結果、友人も受けていた授業を自主休講してくれて、今はテラスで向かいあってる。
友人も気にしてくれてるみたいで、周囲の席を見てくれたみたいだけど、柚陽の姿はなかったらしい。
今までならどっちかが授業を受けている時は、それぞれ思い思いの場所で集まっていた。たとえば、自習室とか、図書室とか。このテラスとか。
だから事前に自習室と図書室は覗いてきたけど、自習室は全部空いてたし、図書室に柚陽の明るい茶髪はない。このテラスの中にも柚陽はいない。
自然、昨日柚陽が入っていくのを見たマンションを思い出してしまっても、悪くはないだろう。
「……昨日、オレ、柚陽つけちまったんすわ」
「お前なぁ……」
「直接聞けるようなタイミングってないんすよ。柚陽は、あくまで“オレは授業を受けてる”って感じっすから。正直、アンタに言われるまで柚陽が授業を受けてないなんて思わなかったし」
「まあ、下手に問い詰めるよりは良いかもしれないけど」
「で、柚陽は大学とも、心当たりのある場所とも違う方向に向かったんすわ。マンションなんすけどね、躊躇なく部屋に入ってった。そう言えば」
言葉を切って思い出す。そう言えば、確かに今の家から大学に向かうのとは違う方向だったけど、大学を起点に考えると、ここからそんなに遠くない。
たとえば、授業と授業の間でも行き来できるくらい、には。
「……そのマンション、こっから行き来に時間かからない距離っすわ」
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