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 どうするのか。友人の問いかけに陸斗(りくと)は悩んだ。幸いなのか、「不幸な事に」とでも言えば良いのか、マンションの場所も、柚陽(ゆずひ)がどの部屋に入って行ったかも覚えている。  次の時間は陸斗と柚陽の授業が被っているし、戻ってくるだろう。マンションの様子を見に行って、大学の外でかち合ってしまう危険性は低い。この友人とも授業が被っているから、申し訳ないけど「乗り掛かった舟」として協力してもらうテはある。乗り掛かったというか、乗せられたというか、無理矢理に乗せるというか。そんな感じもあるけど。 「……悪いんだけど、協力してもらっても良いっすか?」 「まあ、お前が、そうするのが1番良いって思ったなら、協力するよ」 「ん、そうっすね。このまま何もしないでいたら、オレ、ちょっとまた、マズい事になりそうなんで」  力ない苦笑を陸斗は漏らす。  海里(かいり)に対して、後悔がないのは本当だ。本当だけれど、じゃあ今、柚陽に同じ事をしても平気かと言われれば、「嫌だ」と心が訴える。もし知らない間に修復不可能なトコに来ていたなら、仕方ない。でもなんとかなるなら柚陽とこれからも暮らしていきたいし、もし別れる事になるなら、ちゃんと「じゃあね。ありがとう」って言いたい。  綺麗事かもしんないっすけどね。  海里と何があったのか、多分この友人は詳細を知らない。でもなんとなくは分かってる。だからこそ陸斗の、「また」って言葉に、友人も気まずそうに目を逸らした。 「まあ、協力してやるよ。体調が悪いか、サボりか。柚陽の反応を見つつ、伝えとく。使った言い訳は教えるから、お前もあとで口裏合わせとけ。……じゃ、行ってこい」 「りょーかいっす」  なるべく気楽に呟いて。でも、やっぱりどこか気分は沈んだままで。  でもバッグを手に持つと、陸斗は立ち上がった。足は重い。だけど、だけど、公開をしないように。全部を壊してしまわないように。 「柚陽、ごめんね」  自分のそういう感情は言い訳だったり、こそこそする事の正当化かもしれない、なんて思わないではなかった。だから、口から伝える相手のいない謝罪が漏れた。これさえも自己満足なのかもしれないっすね。  自嘲しつつも陸斗はテラスから、そして大学の敷地内から1歩、外へと踏み出した。

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