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一応会わない・すれ違わない時間は考えた。それでも万が一の危険性はあったが、そこまで運は陸斗 を見放していなかったようだ。あるいは、見放されているからこそ、会わなかったんだろうか。
柚陽 にすれ違う事なく、昨日柚陽が入っていったマンションの前には辿り着いた。厳しいセキュリティがあるワケでもなさそうで、普通に部屋の前まで行けそうだ。とは言え、部屋の中に入れるかは分からない。鍵なんて持ってないし、よっぽどのことが無い限り管理人も開けてくれないだろう。チャイムを押して住人に訊ねるにしても、「最近よく来る男性の事を教えてくれないっすか?」なんて、ただの不審者だ。
さすがに、はやまったっすかねぇ。
自分があまりに無計画だったかもしれないとは思いつつ、もしかしたら何か分かるかもしれない、とも思う。たとえば表札が知った名前である可能性とか、偶々住人が外に出てくる可能性とか。なんなら褒められた手段ではないものの、ピンポンダッシュ、というテもある。いや、室内カメラで確認されたら、ちょっとそれは厳しいっす。
でもいくらでも方法はあるだろう。意を決して、マンションの方へ踏み出した足は、ケータイの震動で止まる。短い震動は電話じゃなくてメッセージの受信を知らせるものだろう。
メッセージは2件。1件は友人から口裏合わせの連絡。柚陽に悟られないように、「サボリかもしれないけど、顔色が少し優れないようにも見えたから医務室かもしれない」という合わせ技になったようだ。
もう1件は柚陽から。「体調、大丈夫? サボリならまだ良いけど、具合悪いなら無理はしないでね? 今日の晩ご飯は、元気が出るものにしておいた方が良いかな?」「体調不良よりは良いけど、サボリは、め! だからね」陸斗を案じる文面に、思わず次の1歩を踏み出せなくなった。
オレは、なにやってるんすかね。考える。柚陽に嘘をついて、柚陽を騙す真似をして。柚陽はこんなに心配してくれてるのに、こそこそと。
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