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「あ、え……う、なん、りく……」
自分が心を許した人間の名前に多少なりとも安心したのだろうか。それとも、ふつり、張り詰めていた気が遂に切れてしまったのか。理由は定かではないが、虚ろだった海里 の目に、また、新たな感情が浮かび上がった。驚愕。
よく見えていないのか、目線はちょっと的外れだけど、陸斗 を見てるようにも見えるし、震えきった声も陸斗の名前を口にした様にも思えた。とは言え当然の事ながら、港 たちの時の様に、安心感を得た様子はまるきりない。それどころか、驚愕はまた絶望に転じていく。
おそらく陸斗が港達を呼びつけて、また何か手を下そうとしている、とでも考えてしまったのか。「め、だめ、みなと……はるにぃ……オレ、へっきだから」なんて懸命に訴えてる。その間に陸斗を誘おうとするのも忘れていない。……こんなに震えてるのに。
「何もしねぇっすよ。港達にも……海里にも」
果たしてこの言葉が届いたかは分からないし、届かなくても自業自得ってやつだ。だけど届かない事で海里を怯えさせてしまうなら、ただの自業自得で片付けられない。
りくと。海里の震えた声が、ぽつりと陸斗の名前を呼んだ。舌足らずで、でも震えていなくて。
海里は辛いだろうに、どうにかこうにか、といった様子で表情を作る。それは成功してるとは言い難かった。引きつっているし、目には絶望が強く残っているし。ただただ、怯えている様にしか見えない。
でも陸斗は、海里がどんな顔をしたかったのか気付いてしまったから。……そんな場合じゃ、ないじゃねぇっすか。その言葉を飲み込む。
海里は歪で、完成してるなんてお世辞にも言えない微笑みを浮かべて、問い掛ける。
「りく、とはぁ……、いま、しあわせ?」
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