184 / 538
11
扉を開けた時以上の衝撃なんて、ないと思ってた。実際そんな風に思っているだけの余裕は陸斗 になかったけれど、それ以上の衝撃は、おそらく無意識に想定していなかった。どころか、これ以上の最悪なんてないだろうと思っていたかもしれない。
でも、そんな陸斗をあざ笑うように、海里 は陸斗の脳を大きく揺らした。
今、海里はなんて言ったっすか?こんな状態で微笑もうとして、それで、なんて言った?
その言葉は陸斗にも聞こえていた。聞こえていたけれど、理解できなかった。理解したくなかったのかもしれない。
だってあんなにボロボロで。こんなに傷付いていて。それでも海里は陸斗が陸斗だと分かるなり、どうにか微笑みを浮かべて聞いたのだ。「陸斗は今幸せ?」なんて、オレが幸せかを。
「なんで、なんで海里、そんなコト、聞くんすか……」
思わず漏れた声は弱々しく震えていた。自分のものじゃないみたいだ。
海里を撫でようとして、しかしすぐに止める。今の海里に手を伸ばしたって怯えさせるだけだし、そもそもオレが海里に手を伸ばす資格なんて、ありっこない。
陸斗が思わず漏らした呟きは海里にも聞こえていたんだろう。懸命に微笑もうとする。
さっきよりも綺麗になった微笑みは、さっきよりも強く陸斗の胸を抉る。
なんで笑おうとするんすか。オレなんかに弱音は吐けねぇだろうけど、それでも、せめてさっきみたいに怖いなら怯えて良いのに。「やめて」って、オレが誰かを認識しないで叫べば良いのに。
「だって、オレはぁ……、りくとが、しあわせなら、うれし、から」
ね?なんて、海里は微笑む。どこか気だるそうに、首を傾げてみせて。
記憶の海里よりも、だいぶ弱々しくなってしまっていて、すっかり怯えきってしまっているけど。でも、陸斗の知る海里と、陸斗が忘れてしまったあの海里と、まったく変わってなかった。
───オレは陸斗が好きだから、お前に幸せになってほしいんだ。
海里はいつだって、そんな風に言ってくれてたのに。なんでオレは忘れてたんすか。
ともだちにシェアしよう!