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良かったと思うが、まだ安心してはいられない。時間にそれほど余裕はないし、柚陽 が時間通りに帰って来るとも限らないのだ。一応友人から連絡はないから、柚陽は不穏な動きを見せてもいないだろうけど。
ゆっくりと海里 へ目線を向ければ、やはり幼馴染と1番の友人という効果は絶大なのか、一瞬も怯えることなく、港 と波流希 の名を、掠れる声で呼んだ。とは言え、現状を見られたくない、というように、どうにか体を隠せないか、手を動かそうとしたり、ケガに構わず足を動かしたりはしているのだけ」ど。
そんな海里に対する波流希の行動は早かった。
自分が着ていた上着を脱ぐと、そっと海里にかけてやる。自分でさえ触れたら怯えさせると思っているのか、海里に触れないよう気を付けながら、それでもよそよそしさは感じさせない。
上着をかけてもらって少しは落ち着いたらしいが、それでもなお、気まずげに揺れる足を見て、波流希の顔も一瞬歪む。「はるにぃ」でさえ海里の前でつい微笑みを崩してしまいそうな、文字通りの惨状。
でもやはり、波流希の動きは早かった。
「海里、足が痛くなっちゃうから、少しだけ大人しくできる?」
「う、ん……」
心細そうに頷く海里を、「良い子」と褒める。海里の足はそれでもなお、緩やかに動いていたけれど、やがて大人しくその場で止まった。
それでも海里は不安そうに波流希を見つめてる。波流希は海里に微笑みかける。「オレ、ほんとに汚くなっちゃった」「そんな事ないよ、海里が嫌いなのはオレ達がよく知ってる」そんなやりとりは、以前のように滑稽な気持ちには、もちろんさせてくれない。ただただ胸を痛めるばかりだ。
それでも、さすがは幼馴染であり、海里が唯一心を許してる相手。海里は徐々にではあるものの、落ち着きを取り戻していた。
服の袖を引かれたのはそんな時。一瞬、柚陽が帰ってきたのかと身構えるが、すぐに港であるのに気付く。
明らかに泣きはらした上、寝不足といった顔で、港は陸斗を睨みつけながらなにやら躊躇していた。しかしそれも一瞬で、陸斗は折り畳みナイフを差し出す。海里の拘束を断ち切るため、先程陸斗が港に頼んだ物だ。
「……あんまお前に頼りたくないけど、お前が、今のお前が海里を救いたいって思ってくれてんなら、手伝ってくれ」
そう呟いて差し出されたナイフに、陸斗は手を伸ばす。多分もう、そんなに時間は残っていない。
「当たり前っすよ。……そろそろ戻ってくるかもしれない。だから、急ぐっす」
そう返して、陸斗はナイフを握り込んだ。
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