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「まあ、適当に座れよ」  (みなと)に椅子を示されたけれど、「分かったっす」なんて座れない。せいぜい座れたとしても床っすかね?結局陸斗(りくと)は座る事なく、立ち尽くす。そんな陸斗に港は苦笑を1つ浮かべた。  目を逸らして、どこか遠くを見つめる。その目は、今までと比べると幾分も恨みが消えて見えたのは、都合の良い妄想だろうか。 「お前がもう少し早く、気付いてくれれば良かったんだけど、な」  港の呟きは、港としても波流希(はるき)としても、陸斗にぶつけたい事だっただろう。陸斗が自分の行動を悔やみ、後悔に気付いたのなら。今更陸斗が後悔しても港達にとっては「ふざけんな」と言ったところだろう。  むしろ、諦めたように呟かれただけで、その場で殴られなかったのが不思議だ。それとも、殴る気力もないほどに、疲弊させてしまっているのか。  ともあれ、そんな港を見て、「ごめん」なんて単純な謝罪は呟けなくて、陸斗は強く唇を噛んだ。わずかに、血の味がする。  港の目線が陸斗に戻る。「ま、いっか」その呟きは、とても虚しい。 「お前、なんであの場所が分かったんだよ。先輩も、オレも、必死になって探した足取りだったんだ。なんで海里に興味をなくしたお前が分かったんだよ? ……まあ、感謝はしてるけど。オレ達じゃ見付けられなかっただろーから、自力で見付けられても、もっとひどい事になってただろうし」  もっとひどい事。  直視してしまった海里の足や、ミシミシと音を立てて足を潰す椅子。扉を開けた時のあの怯えよう。あれだけ怯えていても、まだ人を誘おうと必死になってた姿。  それよりも、もっと、ひどい事。  考えただけで、ぞくり、背筋が凍えた。 「で? どうしてあの場所が分かったんだよ。いくらお前でも、個人宅に不法侵入なんて、理由もなくしないだろ」 「まあ、理由はあったっすよ」

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