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不法侵入を果たした理由はある。あるけれど、伝えて良いものなのかは、悩んでいた。この期に及んでと非難されても構わない。違う、“この期”だからこそ陸斗 は悩んだのだ。
だって柚陽 の様子がおかしくて、それを追ったなんて言えば。まだ確証もないのに、柚陽を悪者にする可能性がある。とは言え、柚陽が入っていった部屋は間違いなくあの部屋だった。もしかしたら柚陽は別の理由であの部屋に行って、誰かが柚陽をハメようとした可能性もある。でも。
思い出したのは、あの日。
柚陽が陸斗に何も言わず、帰りが遅くなりだした時。
あの時柚陽は結果的に、「空斗 の事で海里 と話していた」と打ち明けた。もしそれが本当なら、少なくとも海里側が、わざわざ隠すでもない話だ。おおっぴらに公言しなくても、港 と波流希 くらいには話しているだろう。
「最初に1つ、聞いて良いっすか。ちょっとその答え次第じゃ、オレもどこまで話せるかが変わってくるんで」
「……まあ、仕方ねーな。些細な手がかりでも欲しいけど、ハズレ掴まされる可能性を思うと、答えられる範囲なら、答えてやる」
「ありがと。……海里が、ここ最近、あのガキ……空斗の事で実の親と相談してる、みたいな話、あったっすか?」
柚陽の名前は伏せた。伏せなくても港には分かっているだろうけど、「親」という言い方だけなら、母親側の可能性だってまだあるワケだ。
しかし港の反応は、陸斗の予想に反していた。平然と答えるでも、「柚陽かよ」って詰め寄るでもなくて、ただ何も言わずに顔をしかめた。どこか、苦しそうに。まるで、痛みに耐えるように。
「……やっぱ聞きたい事訂正で。無神経な事を聞くのは自覚してるっす。……海里と連絡がつかなくなったのは、何日くらい前っすか?」
港が陸斗に対して突っかかってこなかったのは、多分、そこに何かあると悟ったからだろう。だから港のその反応で、陸斗も答えを、「可能性」がより現実味を増すのを、覚悟した。
「25日くらい前だよ」
覚悟していても、衝撃が消えるものではないらしい。「そうっすか」それは果たして、きちんと音声になっていただろうか。
柚陽の帰りが遅くなったのも、それくらいの時期からだった。
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