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まだ、「偶然かもしれない」と思う余地はあるかもしれない。でも、その大部分は陸斗 の願望だ。傍目には十分グレーというか、むしろ真っ黒なんだろう。
それにもう、「まだそうとは限らない」なんて言ってられる段階じゃない。海里 の足。あの怯えよう。25日間くらい取れなかったという連絡。どれも少しでも手がかりがあるなら言うべき状況だ。
もう、港に伝える事へのためらいはなくなった。それでも、疑問は残る。なんで柚陽 はこんな事をしてるんすか。仮に、本当に楽観的な考えだけど、柚陽がなんら関与していないとしても、それならどうしてあのマンションに嘘までついて向かっていたんだろう。
分からない。
考えても、今の自分では満足で冷静な答えなんて出せないと諦めて、陸斗は1つ息をつく。ためらいはない。最後の1押しだとばかりに、それで覚悟も決めた。
「ちょうど同じような時期っすね、柚陽の帰りが遅くなったんす。そこで柚陽に言われた理由が、“海里と子供のことで話し合ってた”だった。海里がアンタの事、どれくらい信用しているかハッキリは分かんないけど、空斗 のこと、まるきり相談しないってワケはないっしょ?」
「……まあ、それなりに相談されてたよ。お前と暮らしていた頃から」
「でもアンタが知らないって言うなら、柚陽が嘘をついてた事になるっす。その時はそれで解決したけど、その後オレは友人から聞かされたんすよ、“柚陽はオレと被る授業以外一切顔を出してない”って。だから追いかけて、あの場所を知った。あそこに何かあるかもしれないと思って、柚陽とオレの授業が被る時間にオレは大学を抜け出して、あのマンションに行って」
その先は言えずに言葉を切る。港も知っているし、わざわざ口に出す事でもない。
陸斗だって扉を開いた瞬間目に入った光景を、鼻を突き刺したニオイを、海里の声を思い出したくはない。
「ただ1つ分かんねぇのは、なんで柚陽が嘘までついて、あのマンションに行ってたか。なんで、そのマンションに……」
困惑なのか、あの地獄絵図への生理的嫌悪なのか。はたまた、後悔や罪悪感からか。胸が詰まって言葉は出てこず、数度口をぱくつかせても間抜けに息が漏れるのみだったので、諦めて口を閉じる。
どのみち港にはこれで言いたい事も伝わっただろうし、あの光景は港たちの方が思い出したくもないだろうものだろうから、これで良いのかもしれない。
果たして港は、どこか呆れた様な溜息を1つ漏らし、痛そうに苦しそうに、顔をしかめた。
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