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「お前さ、分かんない?」 「分からないっすよ。柚陽(ゆずひ)海里(かいり)は友人同士だし、よりによってあの2人にあーいうコトが起きるとは思えないっす。ただでさえ柚陽は、言葉を言葉の通りに受け止めるド天然、だし」  ド天然。  柚陽の性格として真っ先に挙げられるソレを口にした時、陸斗(りくと)の声はひどく震えた。誰もが知っている事なのに、それが本当であるかどうか、疑わしい、自信がないとでも言わんばかりに。  声の震えを自覚して、戸惑う。同時に「本当は薄々察していたんじゃないっすか?」そんな、戸惑って、呆然としてる陸斗に、冷静な自分が冷たく声を掛けた。  (みなと)の目も、半分はそんな、心の声と同じ感情を宿してる。もう半分は強い呆れだ。救いようのないものを見るような色には、もはや憐れみさえ浮かんでいた。 「……信じる信じないは自由だけど。今のお前は違和感を抱いてるみたいだから、1つだけ言わせてもらうぜ。お前が先輩と話してる時、柚陽の悲鳴が聞こえたの、覚えてるか?」 「そりゃあ……」  あの日、陸斗の中で全てが焼き切れたんだと思う。海里を潰す事に躊躇いがなくなった。海里が潰れれば、自分が幸せになると本気で思うようになって、実行に移した。  “海里が柚陽を襲った日”。海里を責める際にも言っていた事なのに、今は言葉に出来なかった。あの海里を見て尚、言えるような無神経さは、自覚した後悔に食われている。それに、何より、海里が柚陽を襲ったと言うのに、今となっては違和感もあって。  多分、そんな心の内側は、表情に、行動にと、だだ漏れだったんだと思う。港の目から呆れが消えた。代わりに、血が出るんじゃないかというほど強く、唇を噛み締めて。 「海里が柚陽を襲った。それは間違いだよ。……前にも言ったけど、あれは全部、柚陽の自作自演だったんだ」  それからポツリ、消えそうに、それでいて、忌々しそうに、港は吐き捨てた。

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