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それもそうだろう。海里 をあんなメに遭わせた人間と一緒にいたいワケがない。海里と1つ屋根の下っていう状況も耐えがたいのは分かる。オレがいたって、海里を怯えさせるだけっすからね。
幸い荷物はケータイと財布くらいしか持っていないし、このまま家を出ても問題ないだろう。今更海里への謝罪なんて出来はしないが、港 への謝罪と波流希 への謝罪くらいはせめて伝えておきたい。そう思って口を開いた陸斗 を、しかし港が予想外の言葉で制した。
「別に海里が怯えるから帰れ、って言ってんじゃねぇよ」
「……は?」
それはあまりに予想外の言葉で、陸斗は口をぽかんと開けて、その場で固まった。
あれだけ海里を大切に思っているのに、海里にあんな事をした陸斗を追い出す理由が“海里が怯えるから”じゃない?港が何を言いたいのか分からず、マジマジと見つめ返してしまう。
港は悔し気に頭を掻き乱してから、「オレとしては追い出したいんだけどな!!」抑えてこそいるけれど、感情を込めて吐き出した。
「海里がお前を嫌ってない以上、オレはお前を傷付けられねぇっつーの。海里が悲しむ事をすんのはシュミじゃねぇんだ。もちろん、目に余るようなら引き離すけどよ。だから帰れって言ってる理由は、海里じゃない。……柚陽の方だ」
柚陽。心底嫌そうにその名前を口にして、港の目線はリビングの壁掛け時計に向かう。柚陽と陸斗が一緒に受ける筈だった授業はもうとっくに終わっていて、休み時間まで終わっている。次の授業が始まって10分経とうとしているところか。
「お前の目がないと授業を受けないなら、アイツはまたマンションに行くだろ。そこにいるはずの海里がいなかったら? お前と連絡が取れなかったら? お前がどんな理由で授業をサボったにしても、怪しまれるだろ。そうなるとまた、海里が危険な目に遭いかねない」
「……そうっすね」
一応体調不良ともサボりとも判断出来る抜け方をしてきたけど、そろそろ大学に戻るか、今日の授業は本格的にサボってしまって、家で寝ている方が良いかもしれない。いまだあの光景と柚陽は繋がらないけれど、もし柚陽が全てをやったのなら、悟られないに越した事はないだろう。
もっとももう、悟られてはいそうだから、正確には念入りに誤魔化す方が、といったところか。
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