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「言われなくても、やり返してやるよ。……海里(かいり)に嫌がられない方法で、な」  海里の話をする時の(みなと)は、やさしくて、どこか悲しそうな目をしていた。  ああ、そうか。なんて、今更気付いても手遅れの事に、分かりきっていた事に、陸斗(りくと)はようやく気が付く。本当オレは、バカで最低で、なにも分からないガキだったんすねぇ。  港があそこまで海里に必死になるのは、盲信しているからなんかじゃ、なかったというのに。  言葉を失う陸斗に、「あー、ほら!!」焦れた様に突如、港は叫んだ。  こんな時にでも海里が寝ている波流希(はるき)の部屋にまでは聞こえない様に声を抑えるあたり、よっぽどなんだろう。 「ほら、早く行けって。大学に行って平然としてるなり、家に戻って具合が悪そうなフリしてるなり。とにかく、この件に関しては“知らぬ存ぜぬ”を貫けよ!?」 「分かってるっす」 「……とか言って、オレが柚陽(ゆずひ)を殴っちまったら悪い」  それはダメっす。普段なら即座に出てくる言葉は、出てこなかった。まだ陸斗の中で柚陽の笑顔は、こてん、首を傾げる仕草は、焼き付いているっていうのに。  柚陽は何を考えているのだろう。なんのためにこんな事をしたのだろう。分からない。分からない、けれど。  今は考えるよりも先に足を動かす時だ。柚陽に自分の行動が露見してしまえば、海里がまた、危ない目に遭ってしまう。これ以上自分のせいで海里を傷付けるような事は、今の陸斗には出来なかった。たとえ誰かから、海里本人から「今更何言ったんだ?」と糾弾されたところで。 「ん、オレはもう行くっす。……その」  言いかけた言葉は見付からない。何を言えば良いのか、何を言うのが正解なのか。何なら言う資格があるのか。渦巻いて、何も言えない。 「海里の容態なら知らせてやるから。……謝罪の言葉を言うなら、オレじゃねぇだろうし。ほら、とっとと行けよ」 「オレ、アンタにまで気遣わせて、どーするんすかねぇ。……行ってくるっす」  苦笑を1つ浮かべて、陸斗は1歩を踏み出した。名残惜しさか、先の恐ろしさか足は重い。それでも今の自分に出来ること、すべきことは、コレだと信じて。

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