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 慎重に、音を立てないようにと気を付けて、部屋のドアを開けた。廊下は部屋の中と同じように薄暗い。そんな中、ゆらゆら、こそこそと動く影があった。  一瞬だけ侵入者かと思うが、違う。一応影の主も音を立てないように気を付けてはいるみたいだけど、呑気に靴を履いたりしている様だし、なにかを盗んだような形跡もない。そうなると誰かが出て行こうとしているのだ。誰が。……簡単じゃないっすか。  盗みを終えた侵入者じゃないなら、この家にいるのは柚陽(ゆずひ)陸斗(りくと)の2人きり。  陸斗は今、自分の部屋で廊下の様子を見つめている。……そうなれば、コソコソ家から出ようとしてる人間は、1人だ。  こんな時間にどうして。  とは言え、いくら子供っぽくても柚陽だってハタチを越えてる。別に夜中コンビニへ行っても不自然じゃないし、コソコソしてるのは寝てると思ってる陸斗を起こさないためだと考えれば、おかしくもない、けど。  昼間、マンションで見たものが見たものだった、というのもあるかもしれない。不自然じゃないのに、やけに気になった。  うっすら開いた扉は、また閉めて、ケータイを起動させる。起こしてしまうかもしれない、微妙な時間だけど、今は非常事態だ。  これでホント、ちょっとコンビニまで、とかだったら、謝っても謝りきれないっす、ってヤツだけど。  思いつつ、陸斗は(みなと)の連絡先をタップした。送る文面はまだ詳細も分からないからシンプルに一言、「柚陽が家を抜け出したっす。今から追うっすわ」要件のみを送った。  着信音や通知音で気付かれてしまわないように音は切って、部屋着のポケットにしまい込む。  後をつける時は近過ぎても遠過ぎてもいけないだろう。幸い、マンションを出た後に進む方向は開けているから、「どっちに行ったか分からない」とはならない筈。  玄関に鍵がかかるのを待って、陸斗は部屋を後にした。

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