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「まあ、オレの方でも探してみるよー。実はちょっと手がかりはあるんだけどね。うん、誰も悪くないってばぁ。だって、あんな足だよ? あれだけギチギチに縛っておいたし、自力じゃ逃げられないってコトは誰かが助けたってコト。海里(かいり)見ててカワイソになってきた、っていう裏切り者のせいじゃなきゃ、フカコーリョクでしょ? でもまあ、次捕まえたら、あのオバカな頭に、きっちーり! 刻み込むまで、絶対出さないだけのコーソクを考えないといけないよね。海里はオレが探して捕まえるから、キミ達はカンキョーだけは整えといて。じゃあねぇ」  柚陽(ゆずひ)の声が、この場に不釣り合いなほど弾んで、会話はそこで終わる。電話が終わったらしい。  でも陸斗(りくと)の足は震えたままだったし、手を口から離せば情けない悲鳴や絶叫があがってしまいそうだった。グッ、と、息苦しさや圧迫感も気にせず、口を押える手に力を込めた。僅かな吐息さえも漏らさないと言うように。  ただ、陸斗はそれより早く気が付くべきだったのだ。  柚陽が振り返って、まっすぐに電柱を、陸斗を見つめる。街灯があるといっても、それなりの薄闇で、まあまあ距離もあれば、細かい表情までは見えない。恐ろしいけれど、普段のように無邪気に笑っているんだろう、くらいしか。  トン、トン、トン。柚陽が愛用するスニーカーが、アスファルトを蹴る、軽快な音が響く。それは、手を伸ばしても辛うじて届かない、でも、表情ははっきり読み取れる距離で止まった。  こてん。いつものように柚陽は首を倒す。いつものように、童顔に似合った無邪気な微笑みを浮かべる。 「ね? りっくん」  いつものように明るく、柚陽は陸斗に声を掛けた。  そう、あの電話の違和感に、気が付くべきだったのだ。  夜で周囲が静かといっても、それなりに距離を置いていたにも関わらず、柚陽の声がはっきりと聞き取れていた事に。

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