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オレの想いでアンタを壊した
ふっと、あたたかく、やわらかい感触を覚えて、驚きから思わず噛む力が緩んだ。何が起きたのか、遅れて認識する。まるで恋人同士の戯れのように、柚陽 が陸斗 の唇に自分の指で触れていた。
まだ涙をいっぱいに溜めた目で、ふるふると首を横に振っている。「だめだよ」柚陽の声は、やっぱり震えている。
「りっくん、そんなことしたら、血が出ちゃう……」
「オレの事なんて気にしなくて良いんすよ。柚陽にこんな事までさせて、血の1つや2つくらい、出て当たり前っす」
柚陽にこんな事させて。海里 も傷付けて。……もちろん、この状況で海里のことなんて言い出せはしないけど。
自嘲しながら、ぼそっと呟く。本当に、オレのせいじゃないっすか。自己満足に過ぎないけど、自分が血を流すくらい当たり前だろうし、それで罰になるのなら喜んで受けてやりたい。そもそも柚陽の痛みにも、海里の痛みにも、足りてないだろうけど。
ただ、陸斗を案じて触れてくれてるんだろう柚陽の指に、どこか違和感を抱いてしまう。キモチワルイ、とでも言うんだろうか。
そんなこと思う資格もないって言うのに。
それでも振り払ってしまうことは出来なくて。かと言って柚陽を抱きしめる事も出来なくて。
芽生えてしまった後悔に、罪悪感に、更に強くて重い物が押しかかっていく。喉を塞がれているワケでもないのに、ひどく息苦しいのは何でだろう。
「ごめんね。ごめんね、柚陽」
ありがとう、なんて、とてもじゃないけど言えなかった。それでも、どうにか謝罪の言葉を口にして。どうにかやっと、「もう良いっすよ」と言うように柚陽の手に、そっと触れた。
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