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 指定された日時の指定された場所に向かえば、そこにはもう(みなと)が来ていた。陸斗(りくと)の今の家は柚陽(ゆずひ)と一緒だし、海里(かいり)と暮らしていた家っていうのはなかなかに行きにくい。  じゃあ海里の様子も気になるから波流希(はるき)の家、といきたいけど、海里にも波流希にも合わせる顔なんてないし、なんとなく波流希の家がバレるような危険性は避けた方がような気がした。柚陽のこと、信じてはいるし、暴走させた原因はオレだって分かってるんすけど。  もし柚陽が海里を見て罪悪感を抱いてしまったり、海里が柚陽を見て恐怖を感じてしまったら。無理だ。オレに出来ることなんて早々ないけど、せめてそれくらいはやんないと。  陸斗はそんな風に考えていたのだが、港も港の方で思う事があったらしい。自宅や波流希の家を提示することなく、大学からも、波流希の家からも少し離れた喫茶店を指定された。  これなら柚陽が気にして様子を窺っても、海里と顔を合わせてしまう危険性は低くなるだろう。波流希の家も特定されにくそうだ。……なんでオレ、そこを気にするんすかね。それより先に、柚陽の不安を解消するべきなのに。 「待たせたっすか?」 「別にそんなには待ってねぇよ。オレが話聞きたさとお前の態度が気になって、早く来ちまっただけだし」  言いながら港は注文していたのだろうカップを、手の中でくるくると回した。カップの中の液体も揺れる。ほとんど減っていない。多分頼んだは良いけど、飲む気にならなかった、ってヤツだろうか。  陸斗も食欲や、なにかを飲む気にはならないものの、席に着いて何も頼まないというのは失礼だろう。「コーヒーください」店員に短く告げて、港へと向き直る。  そうは言っても、気まずさと今更ながら抱いた重い罪悪感とで、直視なんてできなかったけど。 「で?」  話を促すように港は言うけれど、ちらっと見えた陸斗を見る目は、それほど鋭くない。 「なにがあったんだよ?」  どうして自分を責めないのか。もしかしたら、これが港なりの復讐のつもりなんだろうか。考えつつ陸斗は、1度深呼吸をして。 「昨日、柚陽が全部話してくれたんすよ」  陸斗は途切れ途切れに、弱々しく、どこか疲れた様に切り出した。

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