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 オレの知ってる柚陽(ゆずひ)は。(みなと)に言われて、陸斗(りくと)は改めて考える。とはいえ、最近柚陽が分からなくなってしまっていた。もしかしたら元から分かっていなかったのかも、とも。  だけど、そんな中でも柚陽に対して感じていた事といえば、やさしいこと。ド天然で、素直で、言外の意なんてくみ取れない。そんな柚陽を壊してしまったのは、自分なのかもしれないと思うと胸が痛む。そして、その果てに海里(かいり)を更に壊してしまったのかと。  恋は盲目だとか、恋は人を狂わせるとか。よく言ったもんっすね。現実逃避のように、陸斗は有り触れている言葉に納得した。なんせあんなにやさしくて、素直な柚陽を、あんな凶行に走らせたんだから。  りっくんが喜んでくれると思ったの。  りっくんが取れられちゃうのが不安だったの。  だから海里を傷付けた。陸斗が海里を傷付けた時、幸せそうな顔をしていたから。事実、あの時陸斗は「幸せだ」って思ってしまっていたから。  だから海里を傷付けた。万が一にもヨリを戻してしまわないようにって、念入りに。  ……オレに、1ヶ月近くもなにも言わないで?  ちりっと、なにかが引っかかった。気にしちゃいけない。気にしなきゃいけない。相反する警告を聞きながらも、自然思考が引き出してしまうのは、あの日。  陸斗と海里を引き離すために空斗(そらと)を使ったのだと、笑いながら言った日。  そんな事すら本人を目の前に、明るく言い放ったのに、海里と会っていた事は一切言わなかった。嘘までついて。大学の授業も出たフリを続けて。陸斗と被る時間だけ律儀に受けるなんて、偽装工作までして。 「……柚陽なら。あの素直でド天然の柚陽なら、そんな事さえ、言った気がする、っす」  ぽつり、呟いた途端、背中を嫌な汗が伝った気がした。

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