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踏み出して、落ちた。
本来なら自分が好きな人と結ばれるためにした事なんて、悪い事であればあるほど、人に、それも本人に言うものじゃない。そりゃあ、オレの場合、基本人への興味が薄かったからときめいたけど、普通なら「嫌われてしまうかも」と、ひた隠しにするものだ。横恋慕であるなら、なおのこと。
でも柚陽 は、それを口に出した。堂々と。笑いながら。
それが柚陽の性格なのだろう。ド天然で、素直で。言外の意なんてくみ取れないから、言葉を言葉のまま伝える。
……あるいは。陸斗 が物事に興味が薄いのをよく知っていて、あえてそう言った、可能性もゼロじゃない。興味の薄い陸斗が、好いている柚陽にそう言われれば喜ぶと言うのを、見透かして。
「柚陽なら、多分、そーいう理由だったらオレに言うと思うんすよ。天然だから思わずとか、……オレが喜ぶと思って敢えて、とか。本当にオレを喜ばせたい、オレを取られたくないって気持ちからだったなら、そんな20日以上も、コソコソ、して、ない……」
「やっと分かったか」
腕を組んで呆れ顔を見せながら、港 は言う。
でもコレが、重苦しいほどの罪悪感から逃れたいがための、言い訳じゃないなら。逃げたくて自身が見出してしまった逃げ道でないのなら。
陸斗が喜ぶと思って傷付けたと。陸斗を取られたくなくて傷付けたと。柚陽は嘘をついた事になる。でも、なんで?なんのために。
「いや、でも、なんで嘘つくんすか? そもそも、じゃあなんで海里 に、あんな事……」
「オレはさ、柚陽の事、お前ほど純粋な目じゃ見られねーよ。だから本当の理由はソコになくて、本当の理由をお前に隠したいんだろ、って思うけど」
「本当の理由、っすか」
ぽつり。呟いたけど、簡単には浮かんでくれない。
こうやって疑心暗鬼に囚われてモヤを飼い続けて一緒に暮らすくらいなら、いっそ壊れるのを覚悟で本人にぶつけた方が良いんだろうか。そもそも今の関係、壊れてない、なんて言えるんすかね?
「そうそう。コレ」
悩んで思考の海に沈みだす陸斗を引き上げるように、港は声を掛けてから、目の前にケータイの画面を差し出した。
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