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 ケータイはカバーが欠けて割れ、液晶にも傷が入っていた。幸い壊れてはいなかったようで、液晶画面はまだ友人との通話状態を示している。  しばらく呆然と立ち尽くしていたけど、このままじゃどうにもならない。はっとして、ひとまず足元に落ちたケータイを拾い上げた。少し耳に近付けば、それだけで「おい!? おいって!!」なんて切迫した友人の声が聞こえてきた。 「ごめん、ケータイ落としたっす」 「いや、それなりにすげー音がしたから、なんとなくそれは分かったけどよ……。大丈夫か?」  柚陽(ゆずひ)が授業を頻繁にサボってるっていうのを教えてくれた張本人が、この友人だ。他の相手ならともかく、今更「ちょっと手が滑ったんすわ」なんて、苦しい言い訳だろう。  漏れた溜息は、どんな感情からだろう。知らず知らずケータイを握る手には力が入って、ミシッ、なんて鈍い音を立てた。 「大丈夫……とは言い難いっすねぇ。柚陽がもうサボる必要がねぇって思ってただけに、今日も行ってない、っていうのは、ちょっと衝撃が大きくて」 「ああ、そういや、柚陽の後をつけた時、ケッコー衝撃的なコトが分かった、みたいに言ってたな。まだ話せない……よなぁ」 「そうっすね。聞くだけ聞いてオレは答えない、ってアレかもしんないけど、今は無理っす」  一応友人にも少しは話しておいた方が、と思うものの、ますます動揺してる今じゃ、上手く話せる自信が陸斗(りくと)にはない。  それなりに無茶を言っていたり、妙に思われている可能性はあるものの、「そっか」と受け入れてくれることに安堵する。 「とりあえずオレは、多分、午後から大学行くっすわ」  柚陽の行動理由や、嘘をついた理由は気になって仕方ない。だけど本人に聞こうにも柚陽は「大学に行ってくる」と言いつつ、大学にはいない。そもそも陸斗が聞いた時点で嘘をついたんだ。今聞いたからって、本当のことを教えてくれるかは分からない。  だったら家でモヤモヤしてるより、大学に行った方が気も紛れるだろう。もしかしたら、柚陽の事、知ってる相手がいるかもしれねぇし。たとえば電話の相手とか見付かれば良いんすけど。  通話を終えた電話をポケットに押し込んで、陸斗は家を出た。

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