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出来すぎてないっすか?追いかけつつ、ふと陸斗 は違和感を抱く。だって柚陽 は普通に朝、家を出た。大学に行くのが嘘だったところで、昼時になってまで家の近くにいるんだろうか。それも、陸斗が家を出た、このタイミングで。
もし目的があってサボったのなら、とっくに目的地へ着いているだろうし、あまり考えたくないけど、海里 の居場所を探っているなら近場から潰して、捜査網を遠くに広げていくのが効率的だと思うし。
それに、柚陽の歩き方は、ちょっと不自然だ。
普通に歩いてる。普通に歩いてるんだけど、どっか誰かを気遣う様な歩き方だ。ほどよいペースを保ちつつ、陸斗が自分を見失う事がないようにって。あえて、“後をつけさせてる”歩き方。
そう言えば、昨日の夜もそんな感じだった気がするっす。だってあの電話の声量は、やっぱり、誰か聞いている人間が、オレがいるって分かっているようなソレだったじゃないっすか。今だって気付いていても不思議はない。
むしろ、気付いていない方が妙なんじゃ。
とは言っても。いや、だからこそ、今ここでやめるワケには、いかなかった。
陸斗も陸斗で意地になってるのかもしれないし、自己満足の償いに必死になってるのかもしれないし。今の自分は冷静じゃないかもしんない、って思ってはいるけど。
もし柚陽が「陸斗をどこかに連れて行く」っていう意思を持って、陸斗が出てくるのを待っていたなら。後をつける陸斗に知らん振りを続けているなら。「りっくんに喜んでほしかったの」「不安だったの」あの言葉が嘘かどうかを、嘘ならなんでそんな嘘を言ったのかを知る、またとないチャンスなんじゃないんだろうか。
逆に。
このまま引き返して、大学に行けば。あるいは家に帰ってしまえば、今まで通りの生活を送れる、かもしれない。
それはお世辞にも心からの幸せ、なんて言えないかもしれないけど。それでも、“幸せごっこ”くらいのぬるま湯には浸かって、時々疑ったりしつつも、柚陽と“それなりに普通の恋人”っぽく過ごせるのかも。
一瞬だけ、足が止まる。
まるでそんな陸斗を分かっている様に柚陽の歩く速度が落ちた、気がしたのは、さすがに気にし過ぎっすかね……?
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