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だんだんと周りが寂れていくのに、陸斗 は疑心を感じつつ、安心もしていた。少なくとも病院からは遠く離れて行ってるし、今柚陽 は海里 を探しているワケじゃなさそうだ。
とはいえ、普段明るく無邪気、子供っぽいといった柚陽が寂れた通りを選んで通っているのは不似合いだし、何を考えているんだろうとも思ってしまうし、こんなトコ危なくないっすかと柚陽が心配にもなる。
そんな陸斗の内心を知ってか知らずか、柚陽の足取りはあくまで迷いなく、でも後ろの陸斗に気を遣うようなペースで歩いている。そしてなんら、躊躇いも、迷いもなく、廃工場へと入っていった。入り口に掲げられた、立ち入りを禁止する、さびた看板も見えていないみたいだ。
工場の入り口で陸斗は思わず足を止める。入り口からも、さびた状態で残された少ない機械とか、木材やガラス片が散らばってるのが分かる。
壊すのにも経費が掛かるし、廃業に追い込まれるかなんかして、そのまま残されたんだろう。こういう工場は探せば案外あったりする。不良のたまり場にはもってこい、かもしんないっすけど。
素行が良いワケではないけど、陸斗はそこまで不良でもない、と自負してる。
それに柚陽については、不良なんかとほど遠い。とはいえ、あの幼い外見は、「探検ごっこにきた子供」で通ってしまいそうだから、そこまで廃工場が似合わないってこともないんだけど。
でも、そんな「探検ごっこ」なんて無邪気な気配は、今の柚陽からは一切感じ取れない。ソコを都合の良い集会場にして、仲間と集まってる姿の方が似合ってしまいそうだ。
「……骨の1本2本、覚悟するべきっすかねぇ」
ぼそり。中に入った柚陽に聞こえないように呟く。柚陽は「りっくんが好きだから」って昨日も言ってくれたけど、今の柚陽と廃工場という場所が合わされば、殴られんのかな、とでも思ってしまう。
相手が海里なら一切の文句も言わず、骨の1本2本くれてやる。でも、柚陽もそこまで恨んでいたんだろうか。今の柚陽が、やはり陸斗には分からなくなっていた。
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