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「りっくん!?」
音を立てないように意識していたワケじゃないし、そこらに木片やガラスの破片が散らばっているような環境だ。陸斗 の靴はその内のなにかを踏んだんだろう。陸斗の心とは正反対の、軽快な音が足元で聞こえた。
その音は、やけに大きく響いた気がして、実際それなりに大きく響いたのかもしれない。びくっと、出入り口に背を向けていた、小さな体が跳ねる。それから、おそるおそると言うように振り返った柚陽は、大きな目を、更に大きく見開いた。
まるで、陸斗がここにいるのが、信じられないというように。
「なんで? なんでこんなトコにいるの?」
こてん、首を傾げて、大きな目を見開いたまま、無邪気に陸斗に訊ねる姿は、本当に驚いているんじゃないかと思ってしまう。それとも、これも「恋は盲目」とでも言うんだろうか。
でも、いくら驚いている様子が上手いからって、さすがに無理がある……っすよね?
海里 の時以来、だいぶ臆病になっている自分に気付きながら、それでも陸斗はどうにか肩を竦めてみせた。
「さあ? 柚陽こそ、なんで廃工場なんかに来たんすか? 危ないっすよ」
「危ないのは、りっくんも一緒だよー!!」
ぷう、なんて頬を思いきり膨らませる柚陽。距離が近かったら、ぽかぽかと戯れに殴られていそうだ。
明らかに、誤魔化せるような状況じゃないのに。それでも柚陽は、普段通りを装っていた。
「つーか、ごめんね? オレは柚陽を追ってここに着いたんすけど、ここはどういうトコなの? 柚陽はこんな危ないトコに、どんな用があったんすか?」
「もー! りっくんてば、鈍感だなぁ。海里くんのことで慎重になってるのかもだけど、あんまり鈍すぎたら、め! だよ?」
極めて、いつも通り。まるでここが自宅や、大学であるように。まるで今しているのは、恋人同士の戯れであるかのように。
柚陽が考えていることが分からない。不気味で、怖いほどに、ずっと普段通りを装っていて。
「ふふっ。はははっ!! 危ないところ、かぁ。ここ、結構イイトコだと思わないっ?」
ソレを、突然、崩した。
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