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「けっこーな重さがある機械とかいっぱいあるから、簡単には外せないだろうし、割と奥まったトコにあるから、どんなに声を出したって届かない。ここの取り壊しの話は、もう何年も前に流れちゃってるから、今更取り壊しの話が出る事もないと思うの。でもね、やっぱ廃工場ってどきどきするのかなぁ? 時々悪い人たちが遊び場代わりにしてるから、退屈もしなくて良いよね!」
ふふっ。あははっ。
そんな風に無邪気な笑い声をあげて、くるくるとその場で回ってみせる柚陽 を、陸斗 は知らない。
弾んだ明るい笑い声自体は、聞き慣れた柚陽のものなのに。まるで知らない人間の、不気味な笑い声に聞こえてしまう。
「なんの、話っすか……」
ようやく声に出せたそれは、情けないけど喉に張り付いて、掠れて、震えている。
柚陽はけれど、そんな陸斗を笑う事はせず、いつものように、こてん、首を傾げた。可愛らしく。でもその大きくて子供っぽい目に宿る光は、小さな子供には宿ることがないような、情欲の色に満ちていて。
こんな状況じゃなきゃ、見る人間を簡単に魅了しただろう。
こんな状況だからこそ、陸斗は目の前の柚陽に、ひどく恐怖した。
「もう! さっきも言ったよね? あんまりに鈍いのは、め! だよ、って。海里 の新しいお家の話に決まってるじゃん」
海里の新しいお家。反射的にあのマンションが浮かぶ言葉だ。柚陽が通っていたマンション。薄暗い1室に、手足を封じられて怯える海里。
「いやいや、海里はこんなトコに住まないっすよ? なにを考えてるんすか」
「えー! マンションが誰かに見付かって逃げられちゃったから、オレはオレなりに頑張って新しい優良物件を探したんだけどなぁ。ここなら誰も邪魔しにこないし、拘束だって簡単に外れない。機械が動かなくて電気も通ってないのは残念だけど、真っ暗闇でダレにナニされてるか分かんない、っていうのも良いよね! それにさっきも言ったけど、ここ、時々たまり場にもなるんだよ。普通にお話したり、テキトーに連れ去った子とアソんだり。海里は顔も良いから、ココをたまり場にしてる子達も喜ぶだろうし、海里もいろんな人に相手をしてもらえて、最高だと思うんだよねぇ」
柚陽は変わらず楽しそうに話す。楽しくてたまらない、と言うように。
そんな柚陽の言葉を、陸斗は理解できなかった。聞こえてはいる。でも、意味を飲み込みたくない。だけど、逃げるワケにもいかない。
どうにかこうにか、陸斗は柚陽を真っ直ぐに見つめた。
「なんで海里に、そんなコトするんすか。最早それ、オレのためでも何でもないっすよね?」
「うん! もちろん!! りっくんのためじゃないよ」
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