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「……は?」
廃工場に響いて溶けた叫びに、陸斗 はきょとんとして、間抜けな音を漏らした。言葉の意味が呑み込めない。呑み込めても、理解が出来ない。
好き?誰が、誰を?つーか、だって柚陽 は。いや、人の想いなんて結局変わるもんだし。でも、柚陽は今、「ずーっと、ずーっと!!」って。
それに、海里のことが好きだっていうなら、おかしいじゃないっすか。
混乱の中、陸斗は思う。柚陽の行動には、矛盾があるのだ。オレのことを好きって言ってた、なんて言ってたのに、なんてうぬぼれ混じりの感情じゃなくて、もっと大きな、しっかりとした矛盾。
なんならあの時柚陽がついた嘘の方がしっくり来たかもしれない。
「いや、それ、おかしいっすよね? だって、アンタは」
「りっくん、好きな人にはやさしくしたい、全力で守りたいってタイプだもんね。あの時、りっくんは海里を嫌ってたっていうのを踏まえても、オレが襲われたと勘違いして海里の首、思いっきり絞めたくらいだもん」
「……ッ」
指摘されたソレに、思わず強く唇を噛んだ。
そんな陸斗を見て、柚陽は小さく笑う。無邪気に、可愛らしく、「噛んじゃ、め! でしょ?」なんて言って。
でも、柚陽の言う通りだ。陸斗は好きな人間を絶対に守りたい。好きな人のためなら、他人を蹴落とすことなんて、なんとも思わない。だからこそ、あんなコトをしてしまったんだけど。
と言うか、好きな人を“あんなメ”に遭わせたい人間なんて、いないのではないだろうか。だから、柚陽のしている事は、言っている事は、とてもおかしくて、矛盾に溢れていて。
「でもね、世の中には、ソーイウ人ばっかりじゃ、ないんだよ」
柚陽は笑う。くすくすと。無邪気に、楽しそうに。
「たとえば、オレがそう。オレはね、好きな子はグッチャグッチャのどろどろに潰して、砕いて、溶かしてあげたいんだぁ」
うっとりと、して。
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