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愛が絡まる、縺れる
「でもでもぉ、海里 があんまりにも鈍感だから、ちょぉっとイライラした、っていうのは、あるかもしれない、かなぁ」
うーん。顎に指を添えて、上目遣い。その仕草はとても似合っていて可愛らしい。それが却って、異質で、不気味で。
本能的な恐怖、って言うんすかね、こういうのも。生存本能みたいなのが、受け入れるなって叫んでる感覚っすわ。血の気が引いて真っ青な顔をしているだろう事を自覚しながらも、陸斗 はどうにか、震える体を、この場を去ろうとする足を叱責する。しゃんとするっす!とは言え、本能的な恐怖を根性論でなんとかするのは難しくて、相変わらず体の震えは止まっていないけれど。
それは柚陽 にもバレていたんだろう。
「そんなに怖がるコトかなぁ。りっくんに怖がられると、ちょっとショックかも」
ショックなんて受けた様子は微塵もなく。ただただ無邪気な笑顔を浮かべたままに柚陽は言葉を続ける。
それが陸斗にとって効果があると分かっている様に。
「オレね、小さいころからずーっと、海里が好きだった。まあ、海里は港 や先輩にべったりで、オレのことなんて眼中になかったかもしんないけど。ううん、眼中にない方がマシだったかなぁ。フツーの友達とは、ちょこっと違う、でも港たちには到底及ばない立ち位置っていうの、ずーっとしんどかった。何度海里の特別になりたい、って思ったんだろうね」
柚陽の指先が、手持ち無沙汰に自分の髪をもてあそぶ。くるくると。
ふわふわの髪が柚陽の指に絡んで、ぴょんと跳ねるように指先を離れた。
「大きくなったら海ちゃんと結婚するね! って言った事もあるんだよ。まあ、海里には“はるにぃに聞いてみるね”なんて返されたけど」
大きな目がなにかを懐かしむように遠くを見る。懐かしさを愛しさと、そこに拭いきれない、恨み。
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