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「……それでね、りっくん。オレ、お願いがあるの!」
顔の前で手を合わせて、こてん、首を傾げて。今までだったら、「なんすか?」なんてあっさり食い付いて、何が何でも叶えなければと思っただろう柚陽 の顔。仕草。
でも今、そんな風に思えるワケもなくて、ただただ陸斗 は警戒しつつ、じと、目の前の柚陽を睨むように見つめた。「なんすか」口に出した言葉は、以前の様に幸せに緩み切ったものではなくて、トゲトゲしい。
手を合わせた格好のまま柚陽はフリーズ。あれ?と言わんばかりに首をもっと傾げて、ぽん、手を叩いた。
「ああいうの、りっくんの好みかなぁって思ったんだけど、外れちゃった?」
「オレに好みのタイプ、なんてバカらしいもん、ねぇっすよ。つーか今までのアンタは演技だったの?」
「えへへー、ナイショ! でも、そうだよねー。りっくんは何事にも興味がないもん。好みのタイプ、とかはないかぁ」
柚陽はそれでも無邪気な笑顔を絶やさない。
確かに陸斗は、柚陽のそんな表情が、仕草が好きだった。可愛いと思っていた。
でもそれは、そういうタイプが好きだから、じゃない。柚陽だから可愛いと思ったのだ。今の柚陽がそうしてみせたところで、「可愛いから言うこと聞いちゃう!」とはならない。
ましてや、海里 に対してなにを企んでるか、分かってしまった以上なおさら、迂闊に了承なんてできない。
とはいえ、柚陽本人はそんな事にはおかまいなし、と言った感じだが。
「今、海里はどこにいるの?」
首を倒さずに。大きな目には情欲と憎しみをいっぱいに湛えて。
ゾッとするほど冷たい声で、柚陽はそう訊ねた。
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