239 / 538

 柚陽(ゆずひ)の指がまた液晶をタップして、音は止まる。嫌な汗が背中を伝って、喉が渇くと言うよりは、燃えているような気分にさえなった。はぐ、息を求めて口を開く。でも、入ってきた酸素さえ、陸斗(りくと)の喉を焼こうとしてるんじゃないか、そんな気分にさえ襲われた。  は?は?は?どういう、どういうコトなんすか、なにして。  陸斗の動揺と怒りを気にしないで、柚陽は「えへへー」「えへへー」なんて、楽しそうに、無邪気に笑い続けていた。  ケータイを口元に添えて、「ふふふ」なんて、可愛らしく笑う。 「どう? よく撮れてたでしょー! あ、この距離からだと映像の方は見えなかったかなぁ? 動画も写真も、ばっちり綺麗に撮影出来てるんだよぉ」  柚陽はうっとりとケータイ画面を見つめて、それからそっと画面を撫でた。まるで宝物を扱うみたいな、やさしい手つきで。  だけど柚陽の大きな目には、宝物を見つめている目とは到底思えないような、情欲が、ありありと浮かんでた。それもそうだろう。柚陽の言葉を全て信じるのなら、さっきの動画は長年想ってる相手の痴態なんだから。  でも、だからなんだ。情欲が浮かんでいる理由が分かったからと言って、それを容認はできない。 「オレの切り札は、コレ。さぁて、りっくんにお願いだよー。海里は、どこにいるの? 教えてくれなきゃコレ、ネットに流しちゃうけど」  ぐっ、また潰れた声が漏れる。ただただ柚陽を睨み付ける事しか出来なかった。

ともだちにシェアしよう!