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ケータイを壊そうか。一瞬考えるけど、それは得策じゃないとすぐに思い至る。どこに、どう保存されているか分からないし、脅しに動画や画像を使う時、どっか別のトコに保存しておくっていうのは、鉄則で、よくある事だ。
柚陽 が記憶通りのド天然だったら、そのあたり抜けてそうだけど、果たして今の柚陽がそんな物差しで考えて良いんだろうか。
柚陽はケータイを撫でながら、相変わらず無邪気に、幸せそうに笑っている。
だけどすぐに焦れたかのように、じっと陸斗 を見据えれば、ケータイを操作した。さっきよりも操作の時間は長い。それこそ、どっかに画像投稿の準備をしてるくらいの時間は、十分あるかもしれない。
まだ何か策があるワケでもないし、病院を教える覚悟も出来てないけど、「待って柚陽」思わず静止を掛けていて。柚陽の親指が、ぴたっと止まる。
顔を液晶から上げれば、こてん、いつものように首を傾げた。
「もー。どうしたの、りっくん」
柚陽がどんな動画のばら撒き方をするかは分からない。分からないけど、見逃して良い物じゃない。
かと言って柚陽の企みを聞いてしまえば、海里と引き合わせるのが安全とは言えない。そもそも病院から海里を連れ去ることが出来なかったとしても、柚陽の顔を見るだけでトラウマを思い出してしまう可能性だってある。
「りっくーん? なにも言わないなら、これ、投稿しちゃうよ?」
陸斗に示した画面はよく見えないけれど、“そういう”サイトである事は簡単に分かった。柚陽の親指は投稿ボタンと思える場所を、タップするか、しないかのギリギリ。
陸斗は強く拳を握り、唇を噛み締めて。口の中に僅かな血の味を感じつつ、
「……つーか、なんでオレが海里の居場所を知ってるって思ったんすか?」
苦し紛れを自覚しながらも、どうにかこうにか、陸斗は吐き捨てた。
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