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 柚陽(ゆずひ)が去ったのを確認して、陸斗(りくと)はポケットのケータイを取り出す。もちろん重さなんて変わってないんだけど、やけに重さを増してる気がした。  メッセージを打つ手も、ひどく重い。  だからと言って無視できる事態ではない。報告しておけば防げるコトがあるかもしれない。良くはならないと思うっすけど、せめて悪くならないようにしないと。  動きが鈍い指で重いケータイを支えつつ、「ごめん。柚陽に海里(かいり)がいる病院、教えたっす」と一言、送る。  どんな罵倒だって覚悟してた。電話がきて、声を大に罵声を浴びせられたって、今度会った時に言葉もなく殴られたって、陸斗には文句は言えない。ただただ受け入れるだけだ。  「は?」だからそのあとの返信に、どれだけの罵倒が続くのだろうと、罪悪感を膨らませつつ、ぼんやり覚悟する。だけど続いた言葉は拍子抜けさえするほど意外なもので。「ま、今から転院なんて難しいし、こっちで対処するなりなんなりするわ」その文面に思わず軽く目を見開いた。  なんで。なんで責めないんすか。責める価値もないと思ってる?それとも、今はそんな場合じゃないっていう判断?  困惑しつつ「本当ごめん。謝っても謝りきれないっすわ」と打つ。とんちんかんなことを言ってるのかもしれない、とは思いつつ。  果たして、来ないかもしれないと思っていた返信はあった。「お前のコト許してねぇけど、今のお前なら、そーするのがベストだって判断したんだろ」「まあ、そうじゃねぇなら覚悟しとけってトコだけど」その文面を眺めつつ、じわり、そんな場合じゃないんすよ、自身を叱責しつつも涙が滲む。  それを手の甲で強引に拭いつつ、片手では「柚陽は今、そっちに向かって行ったっす」「……オレも行って良いっすか?」2通目はためらいながらも、送信した。  そして、港からの返信を見るなり、陸斗は駆け出した。これで正しいのか、それでどうなるのかは、まだ分からないけれど。  「むしろ、来い」

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