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息を切らせつつ辿り着いた病院に、柚陽 の姿はなかった。陸斗 から話を聞くなり向かって行っていたし、とっくに着いていてアクションを起こしているものだと警戒していたのに。はたまた、病院側と相談をして、事前に追い出す事に成功したんだろうか。
だけどもし、事前に追い出されたんだったら、あの状態の柚陽であれば、2つ3つ文句を寄越してきそうなもの。あるいは、あの下世話なサイトのURLも送ってきそうだ。「えへへ、上手く投稿できたでしょー」なんてメッセージを添えて。
マナー違反を窘められる可能性は考えつつ、ちらっとだけケータイを覗う。メッセージの通知はゼロ。安堵すべきなのか、より焦るべきなのか迷う。もしかしたら知人を装って受付で部屋番号を聞いているかもしれないし、あたりをつけてしらみつぶしに探し回っているかもしれない。
もう病室に着いてしまった可能性だってある。
胸を支配していく嫌な予感と、海里 達に合わせる顔がないという思いが、急激に陸斗の足を重くした。でも、ここで躊躇っているワケにはいかないと、重い足を引きずるようにして、教えられていた病室に向かう。
もう、来てしまった後なのか。それともまだ来る前なのか。
果たしてそこに柚陽の姿はなく、ベッドの上で眠る海里 と、海里を見守る港 と波流希 がいただけだった。
「ゆ……アイツ、は?」
訊ねようとして、いくら眠っているといっても海里の前で出す名前じゃない事を思い出す。「まだ来てねぇよ」という港の答えに、ようやく陸斗はまともに呼吸が出来て。それまで、文字通り「息を詰めていた」ことを自覚した。
その場に情けなくへたり込みそうになりつつ、まだ安心は出来なくて自分のケータイを再度覗く。柚陽からの連絡が一切ないのは、安心して良いのか、それとも嵐の前触れか。
「ちょっとロビーに行かないか? ここで話したくねーし、いざアイツが来ても先輩なら上手く追い払ってくれるからさ」
「まあ、丁重にお帰り願いたいところだよね」
今まさに“あんな”別れ方をした陸斗が、“その現場”にいるのも良くないだろう。陸斗は頷いて、たとえば廊下に出る時、周囲を警戒しながら、港に案内されるまま、一緒にロビーへと向かった。
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