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「で? お前、柚陽 になんて脅されたワケ?」
ロビーの椅子に腰かけるなり問われた言葉に、陸斗 は思わず目を見開いた。メッセージの返信を見た時もそう思ったけれど、まるで港 は柚陽がナニをしていたか、ナニを企むか知っているような口ぶりで。
間抜けなことこの上ないけど、思わず陸斗は友人間での柚陽がどんな立ち位置だったかを思い出す。
「りっくんの好みかなぁって思ったんだけど、外れちゃった?」なんて言い方をしていたからには、アレは“陸斗を騙すために作った柚陽”である可能性も高い。だけど、いつから“そう”なったかはともかく、まだ柚陽と友人として付き合っていた頃から、陸斗も、他の友人達もそんな印象だったはず。
じゃあ、なんで港は、こんな開口一番でそんな事聞けるんすか。陸斗の見開かれた目に、その感情はありありと出ていたんだろう。港が軽く肩を竦めた。
「柚陽からどこまで聞いたのか分かんねぇけど、オレと柚陽の関係は、まあまあ長いんだよ。そんだけ長く一緒にいれば、それなりに見てきたモンだってあるって」
港の目が遠くを見て、嫌悪感に細められた。そんな顔をしたくなるような内容は、さっき聞かされたばっかりだ。
柚陽本人も、海里 と、そして必然的に港達と短くない付き合いがあると語っていたし、最近の友人達では知り得ないことを知ってるんだろう。良くも、悪くも。
それなら話が早いかもしれない。自分を許して欲しいなんて気持ちは陸斗の中にないが、柚陽への対策は練っていてほしかった。もし柚陽が言葉の通り、長い間の片想いをこじらせている上、“好きな子にチョッカイをかけたい”というタイプなら、あの動画を簡単に手放したりはしないはずだ。可愛らしい範囲では“オカズ”として、最悪の想定では“脅し”のために。
「あそこに海里を監禁したの、柚陽だったんすよ。柚陽はそん時の様子を動画や画像で残してて、教えないとネットにバラまく、って言われたっすね。ご丁寧に、そーいうサイトに投稿準備を整えて、海里との連絡手段まで書いて」
廃工場に響いた声も、あの悪趣味な動画タイトルも、一切の編集がされず海里の顔がはっきり映ったサムネイルも。
どれもこれも簡単に離れてはくれないし、思い出すだけで体の中が焼けそうに熱く、吐き気もこみ上げてくる。
チッ。他に人のいないロビーに、港の舌打ちは小さく溶けた。
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