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拙い幼い恋のゆくえ

「…………え」  陸斗(りくと)の口から漏れたのは、言葉とも言えないような間抜けな音。なんせ(みなと)の口から発せられる言葉として、「お前を恨んでない」なんて、おかしい。だって陸斗がした事を考えれば、海里(かいり)本人はもちろん、海里を大切にしている港と波流希(はるき)だって陸斗を目の敵にしていたって、おかしくないのに。つーか、それで普通なのに。  多分声の通りの間抜け面で港をぼんやり見ていたんだと思う。それこそ、今までの空気も、怒りさえも一瞬忘れて。人間感情のキャパシティをこえると、「無」になるとか、表情の出し方が“バグる”とか、そんな話があったような気がする。  それなら、今の陸斗は、まさに“ソレ”だろうか。 「あー……」  陸斗の様子でなにを言いたいのか港も悟ったらしい。気まずそうに頬を掻いて呟いてから、 「お前が海里にした事自体は、……柚陽(ゆずひ)に原因があるからって、簡単に“お前は悪くないよ”なんて言えねぇけど。でも、まあ、アイツの暴走についてお前がいてくれたらとか、お前がいなかったらとか。そんな風には思ったりしねぇよ。起きた事に後悔するのを無駄だなんて言わないけど、そこについて責めるつもりはねぇってコト。むしろそれなら、オレの方が責任あるし」 「そーいうコトっすか。まあ、アンタに憎んでないって言われる方が正直しんどいっすけど」 「そっちの方がお前を苦しめられるとしても、さすがに言えねぇって」  言った後、港は苦笑を消して、どこか遠くを見つめた。  方向としては、ロビーの大きな、光を取り入れる窓。でも窓や、そこから見える景色を見ているワケじゃないんだろう。多分ぼんやりと視線を投げた先がたまたま窓だったってだけで、きっと港が見てるのは、その“過去”なんだろう。

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