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 (みなと)陸斗(りくと)に聞かせる事を目的にしていたのか。それとも独り言なのか。あるいは波流希(はるき)の時みたく「独り言」という体で呟く言葉を、陸斗に聞かせたいのか。それは分からない。  分からないけど、港は遠くを見つめた格好のまま、ぽつりぽつりと語ったのが柚陽(ゆずひ)の、昔の話。  柚陽が自分であの時、「ずーっと!! 海里が大好きなんだ」って告げた様に。  柚陽の海里への想いは、少なくとも港が海里と親しくなってからずっと続いていた様で、港と波流希の目には明らかだったと言う。  ただ海里の方はと言えば、波流希と港以外に知る人間なんて少ないものの、“ああいった”親の下で育ってきた。小さな内から恋愛に対して臆病になっていても頷けるし、そこで「大きくなったら結婚するね!」なんて言われたら、唯一心を許している波流希に聞いてみるなんて発想になっても、不自然じゃない。むしろ当然だと思うけど、それはあくまで“事情を知っていれば”だ。事情を知らなかったら自分のプロポーズに対し、「他の人間に聞いてみる」なんて答え、どう思うか。  答えは簡単だ。平たく言ってしまえば、「ムカツく」。  特に子供なんて思い通りにならない事に癇癪を起こし易いだろう。まあ、海里みたいな例外もいるっすけど。でも柚陽はきっと、その例外じゃない。  それに柚陽の言葉を信じるなら、柚陽は「好きな子に意地悪したいタイプ」。とは言え、その度合いは陸斗の目から見ても、「行き過ぎ」だと思うけど。  それがいつからか分からない。いつからか分からないけど、積もり積もればなおさら、怒りがソレを暴走させるかもしれない。陸斗がしてしまったように。  あるいは「手に入らない」って感情が燃料になっていたのかもしれない。  小さな小さな子供の頃なら、それはまだ、「かわいいイタズラ」だったかもしれないけど、自分の胸の中で積もり積もらせる内に今みたいな状態になったんだろう。  つーか港が呟く言葉の中には、「今よりはマシ」ってだけで、十分ぞっとする事もあったっすけど。

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