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「あっれぇ~? りっくんと港 だぁ。2人で仲良くお話してどうしたの?」
聞こえてきた明るく無邪気な声に、陸斗 の心臓はドキリと嫌な跳ね方をした。まるで直接冷たい手で握り込まれたような。体が一瞬で凍える。
はぐ、呼吸を求めて開いた口に流れ込んできたのは、空気ではなくて、毒ガスかなにかであるように思えた。そのまま、喉や肺を焼こうとしているかのような。
目の前の陸斗からも、徐々に血の気が引いていくのが見て取れる。それでも、はくり、と数度口の開閉をしたところで、「柚陽 、お前は」震えた声で口にする。恐怖と言うよりは、怒りに満ち満ちた声。
多分殴り掛かりたいんだろう。でも、必死に堪えているらしく、握られた拳が震えている。
そんな港の様子に構わず、……多分違うっすね。港が怒りに堪えて、殴り掛かりたい衝動を抑え込んでるのを知ってるから。だから、あえて柚陽は「そんなこと気付いてもいない」と言うように、にこにこ笑うんだ。
無邪気な笑顔を浮かべたまま、こてん、いつものように首を倒す。少し前まで「可愛い」と思っていた動作が、今は薄気味悪い物に感じられた。ゲンキンかもしれねぇっすけど。でも、その裏側に廃工場で嬉しそうに話したような言葉が、あの悪趣味な動画サイトが浮かび上がって、離れないのだ。
「でもでもぉ、珍しい組み合わせだね? てっきり港はりっくんを恨んでると思ってたし、りっくんも港が嫌いだと思ってたんだけどなぁ」
人差し指を顎にそえて、上目遣い。「自分が可愛いと思われる仕草が分かっている」と言わんばかりの態度にも思えるソレをしながら、柚陽は容赦なくソコを踏み抜いた。
思惑通りなのか、陸斗の罪悪感は増して、情けない話だけれど心臓が抉られる。ちらり、視界に入った港は、けれど、笑っていた。
「はっ。今更お前より強い恨みを持つ相手なんて、出てこねーよ」
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