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ははっ。はははっ。気でも狂ったかのように、陸斗 の口からは笑い声が漏れる。本当に気が狂ったのかもしれねぇっすね。どこかで冷静な自分が、そんな風に分析していた。港 は心配そうに陸斗を見つめ、柚陽 は「りっくんってばぁー、どうしちゃったの?」なんて首を傾げて猫撫で声。
だけど、そのどれも陸斗の笑いを止める要素にはならない。過呼吸さえ引き起こす、その直前まで陸斗は声を上げて笑い続け。
突如、糸が切れた人形のように、ぷつり、笑うのを止めた。
腕をだらんと投げ出し、顔を伏せて、沈黙を保つ事数秒。
「でも、そんな苦労は虚しいだけなんすよ!! 自分の手に、何も残してくれない。空っぽな事この上ない、無駄な苦労っす」
ゆらりと顔を上げ、柚陽を見据えて言い捨てた。
港があからさまに安堵したのが目の端に映り、今の陸斗にはそれを認識するだけの余裕があった。さっきの言葉を無視してしまった事や、驚かせたであろう事はあとで謝らないといけない。
果たして、柚陽は。
首を傾げた格好のまま、文字通りのフリーズ。見開いてみせた大きな目も、どこを見てるのか分からない。ただ「理解できない」とばかりに、その大きな目は語っていた。
沈黙は、長く続かなかった。柚陽は、「きゃはっ」なんてはしゃいだ声を出して、陸斗に向かって自分の掌を示す。見た目には、何の変哲もない、柚陽の手だ。男子大学生にしては小さめの、あたたかい手。
その手を陸斗に、そして港にも見せて、柚陽は、にっこり、明るく可愛く、微笑んだ。
「何も残さない? りっくんと……あと、港も誤解してるよね。オレは確かに恋を実らせたいし、そのための苦労だよ。だけどオレが“コウイウコト”してるのはね、海里 に振り向いてもらうだけが目的じゃないの」
柚陽の笑顔が、明らかに欲を孕んだものに変わる。うっとり。まさにそんな一言がよく似合う。
「この手が海里の血で、セーエキで汚れるんだよ? それはオレにとってケッコーな成果だよ」
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