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悪びれる様子も、悔やむ様子もなく。なんなら自分の行為を否定され嘲笑われたにも関わらず、そこに起こる様子さえ見せずに、柚陽 は両目に欲を湛えたまま、言い切った。
陸斗 たちに示していた手を引き戻すと、ソコにそっと口付けさえしてみせながら、にこり、また笑顔を浮かべる。
「だからね、オレにとっては海里 にアアイウコト出来た時点で、半分は成功。価値のある苦労なんだー」
陸斗の言葉など、文字通り「痛くもかゆくもない」と言ったように、歌うように、楽しそうに柚陽は語る。がくり、と。自分から力が抜けるのを、陸斗は確かに自覚した。
自覚しつつ、反動でその場にへたり込みそうになるのを、なんとか堪える。だって、だって、もう。実る事を目的にしてないなら、柚陽は何だってするだろう。廃工場のコトだって、隙を見て実行するかもしれねぇっす。そんな柚陽なら。
病室で波流希 とどんなやり取りをしたかは知らない。もしかしたら、波流希の姿を見て「謀られた」という怒りで陸斗の姿を探していたのかも、しれないし。
でも、満足のいく接触を出来なかったのは事実だろう。それなら、柚陽は。
……この程度で済まない、ナニカを、用意していても、不思議じゃない。
その予感を「正解だよー」なんて告げるように、「ところでさぁ」にっこり笑いながら柚陽は唐突に、強引に話を変える切り出しを紡いだ。
にこにこ笑いもそのまま、明るい声もそのまま。こてん、首を傾げて、
「りっくんは、海里 の場所を教えれば、それでおしまい、全部オッケーだって思ってたの?」
問い掛けた。
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