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 見たくない。見たってロクな事にならないって分かってる。本能レベルに近い恐怖が陸斗(りくと)を襲っている。けれど同時に「見なきゃいけない」とも思ってる。だって見ないと、柚陽(ゆずひ)がなにをしたのか分かっておかないと、対抗策も練ればしないから。  でもそういう理屈より先に、音が鳴ったから自然目がそっちを向いてしまった、っていうのもあるのかもしれない。陸斗は目を落としていた。  落として、やはり恐怖や嫌悪を抱いた。  電源が入り、サイトが開いたままになっている柚陽のケータイ。それは廃工場で見たような動画サイトでこそなかった。なかった、けれど、それは大体一緒というか、同じような下世話で悪趣味なサイト。  どんな環境で撮られたのか分からない、分からないし多分全員に全員が同じような意図で撮ったんじゃないんだろう、目を背けたくなる写真たち。その内の1枚に、嫌でも目が引き寄せられる。 「テメェ、柚陽!!!」  (みなと)の、喉が裂けるじゃないかと思うほどの絶叫。叩きつけられた拳は、本当ならケータイの液晶を割りたかったのかもしれない。寸でのところで思いとどまったのか、ガタンと鈍く机を揺らす。  嫌な汗が陸斗の背中を伝った。怒りがふつふつと湧き上がっていく。ああ、でも。 「りっくんが“居場所を教えるだけで良い”みたいな空気読まないコトしてくれたし? オレもおんなじ。りっくんには動画を消す、あのサイトへの投稿を止めるとしか言ってないもん」 「なんか、そう言うと思ったっすよ」  無表情に発した声は、自分でも驚くほどに静かに響いていた。けれど怒りがないワケではない。そこに怒りはあるし、防げなかった自分への怒りも。ただ発した声はひどく静かで、柚陽はにこにこ微笑んでいたけれど、港が息を飲んだのが陸斗の意識の外でなんとなく、分かった。

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