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 柚陽(ゆずひ)がサイトを開いたままテーブルの上に置いたケータイ。下品な言葉や明らかに合意とは思えない行為の果てが並んでいるページに、でかでかと大きく表示されているのは、見慣れた顔だった。  とは言っても。  顔自体は見慣れていても、こんな表情は知らない。  怯えきって、目を大きく見開いている。見開かれた目も虚ろで、それでいて溢れんばかりの恐怖が両目ともに宿っている。  口も半開き。満足に閉じられていなくて、飲み込みきれなかった涎と「ナニ」なのか理解したくもない白濁が伝っていて。  服は服としての役割を微塵も果たしてはいない。ただ申し訳程度に布を貼り付けてると言ったような、そんな有様。  青白い肌はますます白さを増しているし、そんな白い肌の中に目を逸らしたくなるほど、吐き気がするほどの赤い痣が散っている。歯型、もあるんじゃないだろうか。  写真に付けられたタイトルは悪趣味そのもの。写真の説明文も陸斗(りくと)たちをゾッとさせるに十分だった。  けれど、何より陸斗の脳を焼き切ったのは。  海里(かいり)のフルネーム。住所や通っている大学。  ご丁寧にも住所は番地まで。地図さえ添えられていた。  電話番号とメールがないのは、海里のケータイを壊したのが他ならぬ柚陽(ゆずひ)達だからだろう。  そしてコメント欄には海里との行為を求める書き込みや「淫乱ビッチ最高じゃん!!」なんて、吐き気がするような粗末な感想。  それらの返信に病院の名前さえ見た時、陸斗は完全に切れた理性と燃え尽きた冷静さのまま振り下ろした拳を。  辛うじて、テーブルへと振り下ろした。ガゴンという鈍い音がテーブルを鳴らし、弾みで柚陽のケータイが僅かに動いた。

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