260 / 538

12

 柚陽(ゆずひ)の手が自分のケータイへと伸びると、鼻歌さえ交えながら指を動かす。スライド、タップ、見慣れた、液晶に触れて操作する動作。  目的のページに辿り着いたらしい。「うんうん」なんて頷いて、またケータイをテーブルの真ん中へと置いた。  どうせ、ロクでもないのは分かってる。  見たくもない。  だけど見た方が良いだろう。だってきっと、見ない方が自分にとって、海里(かいり)にとって、不都合になるだろうから。  柚陽が勝手に公開した、病院の名前。  もちろん、「今から行っても良いの?」という書き込みは目立っているし、名前しか公開してないから場所を訊ねる書き込みもある。柚陽のことじゃそれら全部に「いいよー」「なんなら攫っちゃってもオッケー!」なんて返していそうなのに、さっきの動作で自分の返信も開いたんだろう。  陸斗(りくと)たちの前に晒された柚陽からの返信は意外にも、「ちょっと待っててねー」だった。  なにかを企んでいる。そして交換条件の片側に乗せられたのは間違い無く、 「オレと海里を2人だけでお話しさせて欲しいなぁ。させてくれないなら、この人たちにお部屋の番号もぜーんぶ教えちゃうし、受付に行って部屋番号を聞きに来た人がいたら教えてください! って言っちゃうよー」  想像通りではあるものの、その言葉に陸斗は強く唇を噛み締め、(みなと)は拳を握り締めた。

ともだちにシェアしよう!