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どっちがマシなのか。陸斗 は、おそらくは港 も考える。単純に考えれば、「体を目的にした不特定多数を部屋に入れる」事より、柚陽 の“お願い”を聞いた方が良いだろう。
だけど、それを受け入れてしまえば柚陽はやりたい放題出来る。2人きりにしてほしい。その時間で海里 と他愛もない話をすることも、無理やりに組み敷いて貪り食うことも。
柚陽にとっては「うまくやれば」、陸斗たちにとっては「最悪の場合」、たとえば、あの廃工場に連れ去って監禁してしまうことだって。
仮に、「そうしない」という約束を取り付けられたとしても、柚陽が守るとは限らないし、場合によっては片側の皿に上乗せさせられるだけだ。
どうするべきっすかね。答えの出ない苛立ちと焦燥に陸斗は己の髪を掻き毟る。多分柚陽はまた、廃工場でしたようにカウントダウンを始めるんだろう。それも、どこか楽しそうに。
人間秒読みされれば焦るものだ。そして焦れば、どうしたってベストな選択からは遠のいてしまう。
焦るな。焦った時点で負けっす。言い聞かせながら、とっくにキャパオーバーの脳を動かして、
「……ねえ、柚陽。アンタと海里を病室で2人っきりにしてあげるんで、外から話を聞いていて良いっすか?」
まずは無理難題をふっかける。
ここで頷いてくれれば上々……って言っても、却ってお腹ん中にナニ飼ってんのか、不気味になるっすけど。
でも9割以上の確率で断る。そんな陸斗の読みは外れることなく、柚陽は頬を膨らませた。
「ちょっとりっくん? 堂々と盗み聞き宣言とか、なぁに考えてるのさー。それにロマンが足りないよー? ちっちゃい頃からの想いを実らせる場なんだから、ヤジウマになんか公開したくないし」
柚陽の本音がどこにあるかはともかく、交渉は決裂だ。でも、そここそが陸斗の狙いでもあった。
本命の願望を通したい時には、最初に無理難題をふっかけるのが、セオリーっすよね。
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