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「じゃあ、本当に2人っきりにするっすよ。だからアンタはソイツ等を病室に入れないでほしい。条件を呑むっすけど、1つだけお願い、良いっすか?」
陸斗 は自分の人差し指を軽く立ててみせる。今更だけれど、せめて、この「今」くらいは、余裕を見せておかないと。動揺すれば柚陽 は容赦なく足下を掬ってくるっす。それは、今まで柚陽を「素直なド天然」だと信じて疑わなかった陸斗にさえ、もう、痛いほど分かっている事だった。
柚陽はまた、こてん、首を傾げる。
ド天然で素直。無邪気。そんな自分をビリビリと自分の手で剥がして笑っていながらも、そうした姿を繕うのは「相手の動揺を狙う」って言うより、「相手をイラつかせる」ためなんだろう。……首傾げんのは、本当にクセな気がしてきたっすけど。
それでも、即座に反論されないだけ、多少の手応えはあるのかもしれない。
自分の緊張を悟られないようにと、唾を飲み込む事も、拳を作る事もせず、あくまで自然体に陸斗は言葉を紡ぐ。
少しでも海里 を守れるようにと。……なんて、独りよがりの償い。ソレにさえ及ばない自己満足っすけど。内心でだけ、苦笑を1つ。
気付いた時には手遅れ。よく言ったもので、本当今更なんだけど、せめて海里の笑顔を少しでも取り戻したいから。あんな壊れた笑顔じゃ、自衛のために、どうしようもなくなって媚びる笑顔じゃなくて。
友人の間で楽しそうに笑っていた。空斗 に向けたやさしい微笑み。───陸斗。オレを呼んで、ほんのり頬を染めた、あのやわらかい表情。まあ、もうオレに向けられるなんて自惚れてないし、向けられる資格もねぇっすけど。そうだね、相手は港 や波流希 が良さそーっすね。
……そんな、本当の笑顔を、少しでも良い。取り戻したいのだ。
「海里を連れて病室から外に出ない事。それを約束してほしいっす」
だからせめて。病室内での「最悪」を覚悟しつつ、柚陽が語った未来を潰す事が出来ればと、表面上は飄々と口にした。
内心では、誰に宛てたかも届くかも分からない、謝罪を抱えて。
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