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 ロビーからスキップさえしそうな勢いで病室に向かった柚陽(ゆずひ)と、ほとんど入れ違いに、こちらへ向かってくる波流希(はるき)の姿が目に入った。  少し離れた距離からでも、その足取りが頼りない事や疲れ切った様子が、はっきりと分かってしまう。そんな波流希の様子に、陸斗(りくと)の胸は、ずきり、痛む。  まるでどこかに穴が空いたかのように、すーすーと冷たい空気が体内に入り込んで。胸の痛みは相変わらずで。確かめるように自分の胸元に触れながら、陸斗はロビーに着いて足を止めた波流希から顔を逸らした。  さっきまでの虚勢なんて、この人の前で張れるワケがないっす。  もちろん、さっきは柚陽がいたから何とか保っていられただけで、(みなと)の前だって無理だ。罪悪感が容易に陸斗をずたずたに切り刻む。  許してもらおうなんて思わない。それでも謝罪せずにはいられず、だけど言葉は見付からない。  陸斗がどうにかこうにか口に出来たのは、顔を伏せたままの「本当、ごめんなさい」だけで、それさえ今にも消えそうな小声。小さな子供だって、もっとマシな謝り方をするだろう。 「顔、上げて」  けれど、波流希の声はやさしくて。おそるおそる顔を上げれば、あの男女共にウケるような笑顔とは、また違う。相手を心底から慈しんでるような、微笑みを浮かべていた。  目元には、疲労がありありと出ているというのに。……オレより、よっぽど辛いはずなのに。 「キミのした事は、やり過ぎだと思ってるよ。オレも港も、きっと許せない。でも今被害が大きくならずに済んでるのは、オレ達だけじゃ無理だったし……柚陽の件に関しては、オレ達にも大きな責任があるからね」  港がしたように、波流希も窓の外を遠く見据える。きっと窓そのものでも、景色でももちろんなくて、彼等だけが知っている過去を。  けれど波流希がそうしていたのは一瞬で、すぐに陸斗と港を見つめ、微笑んだ。  なんとなく。  家庭環境が良いなんて言えない生活を送ってきた海里が、唯一心を許した相手が波流希というのは、よく分かる気がした。 「……今は下手に刺激をしたくないし、柚陽の気が済むまで、待つしかないのかな。あまりこういうサイトは見たくないんだけど、少しくらいチェックしておいた方が良いかもしれないし」  確かに削除そのものは出来なくても、あたりくらいは付けられるだろう。出来ればもう、「最悪」を避けるために海里を傷付けることなんて止めたい。  それなら気持ち悪いなんて、吐き気がするなんて言ってられない。陸斗も重い手で自分のケータイを操作する。  果たして本当に公開してないのか、それとも上手く隠しているのか。柚陽が投稿しようとしているサイトは見付からず。  それでも不幸中の幸いと言えるのか、柚陽があれだけ大々的に広めたにも関わらず、海里の病室に向かう、不審な影は見受けられなかった。

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