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だけど、柚陽 がそんな事で動じないというのも、陸斗 は分かってた。
こてん。首を倒して左右をきょろきょろ。「それらしい人」は見当たらなかったというように、不思議そうにまた、こてん、と首を傾げ。倒した首の角度を戻しながら、「え? もしかして、オレ、なんて言わないよね?」なんて、心底不思議そうに聞いてくる。
そんな柚陽に、また声を荒げそうになる港 をなんとか陸斗が抑え、波流希 はと言えば、心底呆れきった溜息を1つ。
「それ、本気で言ってるんだとしたら、少し柚陽のことが可哀想になってくるよ。そこまで理解力が低かったのかな、って。もし自分の言動が悪いんだって思えないにしても、……こんなもの見せたら、港が怒ることくらいは、付き合いの長い柚陽なら分かるでしょ?」
こんなもの、と言いながら多少強引に柚陽の手から「件のノート1ページ」を取り上げると、軽く振ってみせながら、港が怒って当然だと波流希は言葉を続ける。
柚陽はまだ、きょとーんとしたまま。演技だって、なんならイラついた時点で柚陽の思惑通りだって分かってるのに、無視できない自分が嫌になるっす。
「付き合いなんて長くないもん。長かったところで、イヤイヤだから、港の考えてることなんて、あんまり理解したくなーい!」
「オレだって、お前の本性に気付いてからずーっと、お前を理解したくなかったよ」
「本性ってなぁに? やだなー、オレはオレだよ? それに過去形? 港、オレに歩み寄ろうとしてくれてるのー? ……ごめんね! 港と先輩じゃ、あんまり嬉しくないやぁ」
「少しでもお前の思考を理解してれば、こんな事は防げたのに、って思ってな」
ぼそり。
心底から後悔していると、誰が聞いても分かる。ひどく弱々しい声音と、それに反して強く噛み締められる唇。
「アンタは悪くないっすよ」なんてその場凌ぎの言葉は、出てこなかったし、言えるはずもなかった。港本人にとってソレが真実だし、この非情な事態に人間はどっか、理由を求めたくなるんだ。自分が納得出来る原因を。
……柚陽が示してきたノートの1ページには。
震えていて、いつもよりだいぶ形は崩れていたけれど。
それでも、はっきり「ソレ」と分かる海里 の文字が並んでいた。
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