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「……そりゃあまあ、一時期一緒に暮らしてた時期もあるっすからね。話し出すタイミングがぴったり重なってもおかしくないっすねぇ」  柚陽(ゆずひ)と気が合う、なんて。前までは言われたら嬉しかったことなのに、今ではゾッとするだけだ。でも、かと言ってここで露骨に嫌がれば柚陽は執拗に突いてくるだろうし、それに乗じて話を逸らそうとするかもしれない。  あえて素っ気なく返せば、その考えは正解だったようで、「つまんない」明らかにそんな顔を一瞬だけ見せて、柚陽は(みなと)の方を改めて見つめた。  陸斗(りくと)と重なった言葉を切っ掛けに、話を逸らすのは諦めたらしい。  ……まあ、そうやって話し出される話が、明るい話題だったことなんてないんすけど。 「えーっと、先輩やりっくんは、病室に行った方が良いと思ってるみたいだけど、それは間違ってるよ。オレとしては行かない方がオススメ」 「誰がお前の言うコトなんて信じんだよ!?」  はっきりと結論や理由を話さずに不安や怒りだけを煽る柚陽に、そんな柚陽には慣れているだろう港でさえ声を荒げた。それとも「慣れているからこそ」だろうか。散々耐えて、聞き流してきたからこそ、ここにきて限界を迎えた。  今の海里(かいり)を見れば、その可能性も十分っすね。  柚陽は、港に声を荒げられても動じることなく、「うーん」なんてマイペースにいつもの動作を見せる。顎に人差し指を添えて、上目遣い。  「いい加減に」しろ、そう言おうとしながら、柚陽の腕を掴もうとしたのだろう。伸ばされた港の手は、するりとかわして、えへへ、笑顔を1つ。 「そう簡単には捕まらないよー。おにごっこも、かくれんぼも! ……えっと、ああ! 海里の病室に行かない方が良いってお話だったよね。海里ね、オレ以外が怖いんだって。だから、あんまり海里を怯えさせないであげて? まあ、りっくんみたいなシュミがあるなら、ぜひ、って感じだけど」  ……は?  罪悪感で胸を抉られる痛みを感じながらも、柚陽の言葉を正確に聞き取り、理解した陸斗は、けれど理解を拒んだ。「なにデタラメ言ってんだよ!?」叫び返す港の声も震えている。  けれどおそらく、1番動揺して、柚陽の言葉を拒んでいるのは。 「え……」  ぼうぜんと、呟かれた短い音。絶望、「信じたくない」といったような葛藤、無。なんて言ったら良いのか陸斗には分からない、ただいくつもの感情を混ぜ合わせたようで、無感情なようでもある目で虚を見つめている。  小さな頃から海里が唯一心を許していた、はるにい。……波流希(はるき)なんだろう。

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