272 / 538

 波流希(はるき)ほどではないにしても、陸斗(りくと)だって、その言葉に動揺してる。なんならいっそ、自分の事は忘れてくれていて構わない。たとえ「身勝手」と言われても、あの状態の海里(かいり)に「幸せ?」って訊ねられるのは辛い。そこまでして幸せを願ってもらう資格なんてないのだから、それこそオレの事を忘れて幸せになってほしいっす。  でも、波流希や(みなと)のことは?  港は友人の中でも、海里にとって、きっと「特別」だ。  海里本人は順位付けなんて嫌うんだろうけど、多くの友人の中で「1番の友人」「親友」と呼べる相手は港だろう。  波流希については、海里が子供のころから唯一心を許している相手だって言うのに。  マンションに監禁されて、ほとんど壊れかけていた海里は、それでも港と波流希のことを覚えていた。あの2人がいれば、安心していたはずなのに。  そんな2人のことさえ、今の海里は怯えるって言うんすか? 柚陽が、そうした、って。  ふふふー。  柚陽が心底楽しそうに、含み笑いを漏らした。目に、嫌な光が宿っている。 「海里はさ、先輩にべったりだったよね。先輩にだけは素直に甘えたし、ちゃんとした愛情を知らないコトへの不安も口にした。港もさ、“はるにい”っていう大きな壁があったから、あんまり自覚はなかったかもしんないけど、他の子に比べれば、まぎれもなく海里の特別だったよ。オレはキミ達の立ち位置が欲しかったんだもん、よく分かる。でもね、そんな海里が今、先輩のことも、港のことも怖がってるの。小さい頃からの支えも、なにもかも忘れて、オレとセックスするだけのお人形。あはははっ! マンションの時はりっくんに邪魔されちゃったけど、マンションの時よりよっぽど、壊れたお人形っぽくないかな?」

ともだちにシェアしよう!